第4話 最高司令官と紅一点

「さてと…緊急の任務、ご苦労だった。改めて感謝をしたい。それと、急な呼び出しに謝罪したい」

「問題ありませんよケント司令。命令とあらば速やかに行うのが我々でしょう?。ですから頭を上げてください。最高司令官たるもの、そう易々と頭を下げる訳にはいかないでしょう?」


 ケントは深々と頭を下げた。それに対し、クロウは少し慌てたように頭を上げさせた。


「いや、最高司令官だからこそ、僕は君達に誠意を示したいんだ」

「いえいえ……」

「あーこほん!。それで、司令官殿?本題に入って欲しいのですが…」


 ケントとクロウの話し合いが終わらないとみて、すかさずアラヤは強引に話を遮った。


「あぁそうだったね。本題に入らないとね…。今回呼び出したのは、君も分かるだろう?クロウ君?」

「はい、シュウトのことですよね」


 3人がシュウトを見つめる。シュウトはかなり緊張しているようで誰とも目を合わせることが出来ずに、目を逸らしていた。ケントは優しく笑うと、シュウトに話しかけた。


「そこまで緊張しなくても大丈夫だよ。とりあえず君の名前と所属を言ってくれるかな?」

「え、えっと。ガーディアンズ訓練校、第2学年のシュウトです」

「よろしく。君はわかってると思うけど一応自己紹介をするね。僕はガーディアンズ最高司令官のケントだ。よろしく」

「よ、よろしく!お願いします!」

「プッ……プププッ……!」

「…………」

「ダッ!……おぉ……」


 緊張してるシュウトの姿を見て笑いを堪えているアラヤにクロウは無言で腰のあたりをを強く叩いた。アラヤは腰を抑えて悶絶しているようでプルプルと震えている。

 2人のやり取りを無視してケントとシュウトは話を続ける。

 

「とりあえず、君の能力を分かってる範囲で教えてくれないかな?」

「能力名は「バッファー」。能力は自身と周りの力を強くすることが出来るみたいです。それ以外はまだわかっていません……」

「成程……。支援タイプの能力か……」


 ケントは少し考え込んだ後、3人と目線を合わせた。


「とりあえずこれからのことを話す。シュウト君。君は訓練校を中退して、そのまま第15個別部隊への入隊を命ずる」

「!?」

「え!?」

「なっ!?」

 

 3人は目を見開き、驚いていた。ケントはクロウとアラヤの方を向き、更に話を続ける。


「第15個別部隊の任務はしばらくの間、シュウト君の教育と彼の能力の研究を命ずる。彼に個別部隊の基礎の仕事を教えてくれたまえ」


 そしてケントはシュウトの方を向いた。

 

「そしてシュウト君は個別部隊の基本活動を学び、任務ができるようにして欲しいことと、能力の研究結果を纏めて提出をするように。あと君に基本装備のムールズと個別部隊用装備のリグムスを支給する」

「ちょっと待ってください!。彼はまだ子供ですよ!?。能力者とはいえ個別部隊への入隊は些か早すぎなのではないでしょうか!?」

「彼が能力者だからだよクロウ君。このまま彼を野放しにすると、なにかトラブルに巻き込まれる可能性もある。僕の目は全てを見ることは出来ない、見ることが出来るのは、今僕の目の前で起こっていることだけだよ。なにか起こってからでは遅い。シュウト君の身の安全を守るのはこれが1番いい判断だと思うんだ」


1度言葉を区切り、「それに」と続く。

 

「君の部隊のメンバーが少ないという理由もある。彼の戦力はまだ未知数だが能力者だ。磨けば光るものもあるだろう。そしてシンプルにメンバーが増えれば、何かと便利ではあるだろう?」


 クロウの意見にケントは冷静に反論する。クロウは押し黙ってしまった。


「…………分かりました。マコにムールズとリグムスの手配と彼の入隊申請の用紙を後で提出させます…」

「うん、ありがとう。ごめんね…なんだか君が悪いみたくなって……」

「いえ、リーダーの務めですので……。他になにか連絡事項はありますか?」

「他は特にないかな。任務の報告書は、いつも通り君とマコ君にお願いするよ。昼休憩の後にでもいいから提出してくれたまえ」

「分かりました。ではこれで失礼します」

「失礼します」

「あ、しっ失礼します!」


 3人は執務室を出ていった。今までの喧騒が嘘のように静かになった。


「これでいいんだよね…。約束は絶対に果たす……きっとあの子を守ってみせるよ……」


 部屋に残されたケントは悲しそうな、だが決意に満ちた表情で1人呟いた。



「…………」

「…………」

「…………」


 3人は執務室を出た後、無言で廊下を歩いていた。少し歩いた後、恐る恐るシュウトは口を開いた。


「えっと……クロウさん…。怒ってますか……?」

「はぁ…。いや、怒ってはいない。だがあの人の無茶ぶりには正直呆れてしまう…」

「ま、ケントさんの言う通りだろうな。コイツの安全を守るなら雑に扱われやすい一般部隊よりも、個人の管理がしやすい個別部隊の方が適任だろうよ。それに、訓練校も安全だろうけど、教官の目が離れた隙に…なーんてことも有り得るしな」


 クロウはため息をついて額に手を当てているがアラヤはあっけらかんとしている。

 そしてシュウトの方を振り返り、手を差し出した。


「とりあえず、今日から同じチームなんだ。よろしくな!」

「は、はぁ。よろしくお願いします」


 シュウトは差し出された手を握り返した。アラヤは嬉しそうに笑い、握った手をブンブンと上下に降った。それを見たクロウはまた1つため息をつき、シュウトと向き合った。彼は考えるのをやめたようだ。


「とりあえず、俺からもよろしく頼む。とりあえず、マコに報告するから、一旦ウチの部隊のルームに案内する」

「ルーム?」

「あれ?そこは習っていないのか。簡単に言うと個別部隊専用の部屋だな。基本はその部屋で待機してるんだぜ」

「基本は長期任務と待機の繰り返しだ。一応ルームで生活することも出来る。仮眠室もあるし、食事に関しては食堂も24時間開いているから問題無い。本部内限定だが、出前もできる。それと、ルームには冷蔵庫とコンロもあるから簡単な料理くらいなら作れる」

「基本は長期任務なんですね」

「個別部隊は基本的に長期任務になるからな。その世界でアクションを起こすことと、ヴァイラスの駆除が主な内容になっている」

「そうなると、任務中はずっとこっちに戻れないんですか?」

「あまり長居はしてはいけないが、任務中でもこちらに戻ることも出来る。任務中の寝床については、ガーディアンズが運営してる各世界の宿泊所になるだろう。まぁ場所によっては野宿も有り得るがな」


 3人が話をしながら歩くといつの間にか1つの部屋の前に立っていた。どうやらここが第15個別部隊のルームのようだ。


「ここが我々のルームだ。待機命令が出たときは、基本ここにいることになるだろう」


 そう言ってクロウはドアを開けた。それに続いてシュウトも入る。

 部屋は少し広めの部屋の中央に3台のデスクが向かいあわせに置かれている。部屋の奥は仮眠室になっている。その隣の部屋は給湯室のようだ。

 中央の机の1つには、まだ湯気が出ている飲み物があるが部屋には誰にもいない。


「あれ?。誰もいないのか?」

「あーお帰りー。早かったねぇ」


 アラヤが喋ったと同時に、部屋に入って右側にあるドアから半裸の女性が出てきた。下はスパッツをはいているが上は下着もつけず、首からタオルをかけているだけで巨大な胸が見え隠れしている。幸い、タオルで大事なところは見えていないが、少しでも動いたりするとハッキリ見えてしまいそうだ。


「うわぁぁ!!!」

「はぁ…」

「マコちゃん!!前!前隠して!」


 シュウトはびっくりして尻をつき、クロウは片手で頭を抑え、ため息をついている。アラヤは慌ててシュウトの前に立ち、両手を広げ隠していた。


「あれ?この子は?結構カワイイじゃない!」

「話は後でする。とにかく服を着てくれ……」


 彼女が制服に着替えをした後、マコと呼ばれた女性は笑顔で自己紹介をした。シュウトはまだ机がないため、クロウの隣で用意された丸椅子に座った。


「あたしは第15個別部隊のサポーターを務めてるマコ!。君は?」

「シュ、シュウトです……」

「緊張してるの?可愛いわねー!。ねぇ!あたしの裸どうだった?」

「う、うぅ……」


 マコの言葉に先程のことを思い出してシュウトは赤面した。それを見た彼女は嬉しそうに更に問い詰めてくる。クロウは話を遮り、本題に戻ろうとした。


「マコ、もうそこら辺にしておけ。話しが進まない。シュウト、彼女はウチの部隊のサポーターをしている。事務作業もしているから手続き関係で困ったら彼女に頼むといいだろう」

「うんうん。あたしが手取り足取り教えたげるからね!。それでクロウ、どうしてこの子がここにいるの?。確か彼って今回の任務で保護した子なんでしょ?」

「そのことについてだ。彼はウチの部隊に編入することになった。しかも彼は能力者でもある」

「え!?ウチの部隊なの!?」

「何か異論か?ケント司令直々の命令だ」

「いやいや!ないない!。寧ろウェルカムよ!。同年代しかいなかった職場にこんなに可愛い男の子が来てくれるなんて!」


 マコはさっきの勢いを取り戻して、嬉しそうに頷いた。クロウは「さて」、と一言呟き、立ち上がった。


「俺達は少し用があるから2人は先に食事に行ってくれ。お腹も空いているだろう、まだ君はライセンスを持ってないからこの食券を使ってくれ。午後からはガーディアンズの基礎知識と個別部隊の基本的な動きについて教える。戦闘訓練は明日からだ。」

「分かりました。ありがとうございます!」

「それとマコ、報告書をこれから書くから昼休憩後に確認をしてくれ」

「報告書はこれから書くのね、わかったわ。ささ!シュウトクン!行きましょ行きましょ!」

「わ、わぁ!」

「んな強引に連れて行こうとすな。ほらシュウト、行こうぜ」


 マコはシュウトの手を優しく引っ張り連れて行こうとした。そしてアラヤもそれに続いて行こうとするがクロウは彼の肩を掴み、引き止めた。


「お前は俺と用を済ませたあと、少し別件で付き合ってもらう。シュウトから聞いたぞ?」

「ギギギッ……!。な、何のことでしょうか?……」

「とぼけるな。報告書を書いたら少し模擬訓練だ。拒否権はない」

「助けて!マコ!シュウト!」

「はいはい、コイツは無視してご飯よ!」

「は、はぁ……」


 アラヤの助けの声を無視してマコとシュウトの2人はルームを後にした。

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