第3話 世界を繋ぐ海へ

 3人はヴァイラスの襲撃を警戒しながらも、救護テントへ向かっていた。そこでふと心が落ち着いたのか、シュウトはクロウに生存者の確認を聞いてみた。

 

「クロウさん。自分以外で生存者はいるんですか?」

 

 その言葉を聞いたとき、クロウは少し険しい表情になった。

 

「俺が聞く限り、生存者は君1人だけだ。ほぼ全滅なのかもな…」

「そう…ですか…。いえ、いいんです。ヴァイラスと戦うこと自体が命をかけるようなものですし…」

「……完全に割り切れとはいわない。他者を思いやり、弔う気持ちは捨ててはならない。大切なものだ」

「はい…」


 シュウトは静かに俯いた。クロウは何も言わずにただ隣を歩いていた。

 アラヤはこの空気をどうにかしようと口を開いた。


「ま、まぁとりあえずテントまで急ごうぜ!。向こうまで行けば少しは安全だし、本部まで戻ったら飯でも食おう!」

「そうだな。暗い気持ちになっては死者も浮かばれないだろう。腹いっぱいに食べれば元気にもなるだろう」

「はい……」


 救護テントに着いた後、シュウトは簡単なバイタルチェックを受けていた。その間クロウとアラヤは「本部からの連絡を待つ」といい、待機をしていた。

 バイタルチェックの後、椅子に座ってたアラヤと目が合うとアラヤは手を挙げていたため、シュウトはそちらに向かった


「戻りました。あれ?クロウさんは?」

「おつかれさん、あいつなら本部から連絡が来たみたいでその対応してる」


 シュウトはアラヤの隣に座り、クロウが帰ってくるまで、少し雑談をしていた。


「クロウさん忙しそうですね」

「リーダーだからな。上からの伝達は一旦クロウに全部届いて、あいつから俺らに来るわけだし」

「アラヤさんはチームの中だと何をしているんですか?」

「俺か?。俺はスーツの整備担当。アイツの装備だって俺が整備してるんだぜ?」

「技術職なんですね。事務作業もクロウさんが?」

「事務はウチのサポーターの仕事さ。現場には来ないけど後方から全体の作戦指示なんかもやってる人だよ。マコって言ってな。そのうち会えると思うよ。……お、来た」


 アラヤの言葉と同じタイミングでクロウが戻ってきた。


「お疲れ様だシュウト。早速で悪いが3人まとめて本部に戻るように言われている。それと最高司令官の執務室に来るように言われた。飯はその後になりそうだな」

「え!?なんであの人に呼び出しくらってんだ!?」


 最高司令官からの呼び出しという言葉にアラヤは驚きを隠せないようだ。シュウトは口を開き、固まっていた。クロウは続けて話す。

 

「十中八九シュウトのことだろう。能力者が見つかること自体が稀だからな」

「はぁ…まぁいい。さっさと行こうぜ。俺だって腹減ってきたし」

「最高司令官が……僕に……?」

「そうだ。あの人直々の指名だ。お前過去に何かやらかしたのか?」

「そんなことないです!。至って普通の訓練生ですよ!?」


 クロウの睨みにシュウトは全力で腕を振り否定した。クロウはため息を着きながら2人を催促した。

 

「あの人を待たせる訳にはいかない。2人とも早く行くぞ。はぁ…少しくらい休ませてほしいものだ…」


 3人は臨時で出してもらったパッセンジャーに乗り、訓練所からターミナルまで移動した。

 シュウトはターミナル内を見渡す。ターミナルのロビーでは怪我人がベッドに寝かされていたり、散らかったものを片付けている最中であった。


「ここもヴァイラスの襲撃を受けたんですね。やっぱり僕達だけじゃなくこの世界が…」 

「ああ。もうこの世界は浄化区域ではなく、汚染区域になった。ここの訓練所はしばらくの間使われないだろう。少なくともまだ戦闘を行っていない訓練生は立ち入り禁止の世界になる」


「よくある話だ」と話した後、クロウは近くにいたガーディアンズのスタッフに声をかけ、何かを話していた。

 一通り話した後、クロウは2人の元へ戻ってきた。


「既に発進の準備は整っているらしい。補給も機体の除染作業も終わっている。すぐにここを発つぞ」


 発進ポートに移動するとクロウとアラヤはリグムスを展開させ、シュウトにパイロットスーツを渡した。


「これに着替えてくれ。安全運転は心掛けるが、「海」でヴァイラスに遭遇するかもしれない。とりあえず付けておけば安全だ。少し進んだ先に更衣室があるからそこで着替えるといい」

「分かりました、着替えてきます。少し待ってて下さい」


数分後、パイロットスーツを来たシュウトが更衣室から出てきた。


「おー。似合ってるぜシュウト!」 

「あんまり茶化さないで下さい…。そういえば今更ですけど、移動には何を使うんですか?」

「アレだぜ」


 アラヤが指を指した先には、青と白をメインカラーにした小型の戦闘機のようなものが発進用カタパルトにあった。それを見たシュウトは嬉しそうに声を上げる。

 

「フュートランスポーターだ!」

第15個別部隊ウチ専用のカスタムが施してあるんだぜ?。かっこいいだろ?」

「はい!。僕このシリーズ結構好きなんです!。かっこいいですね!。整備もアラヤさんが?」

「だろぉ!?。といってもこれの整備してんのは俺じゃなくてガーディアンズの整備班なんだけどな」

「あ、そうなんですか…」

「まぁカスタムの設計は俺がやってるからさ。実際は設計図を開発部にポイして後は完全に任せてたけど…。しょうがないだろ!?。俺の専門はスーツの整備なんだ!」

「そ、そうですね…。やはり誰にだって得意不得意がありますよね…」

「2人とも、駄弁ってないで早く乗るんだ」

「すみません!今行きます!」

「そう急かすなって。今行くからさ」


 3人が乗り込み、発信前の最終確認を行う。シュウト以外はいつもの光景であったが、シュウトは初めての経験だった為、顔を強ばらせていた。その顔を見た2人は彼にアドバイスを送った


「そんなに緊張しなくても大丈夫だぜ?。シートに深く座って背もたれに背中をしっかりと付けてくれればいいさ。シートベルトもあるんだし安心しろよ」

「そう言われても…初めてですし…。なにか注意した方がいいことはありますか?」

「発進時のGがそこそこある。口はしっかり閉じておくといい。頭もしっかり背もたれにつけておくといいだろう」

「こ、こんな感じですか?…」

「それくらいでいいぜ。力を抜いてリラックスするといい……プフッ!……」


 アラヤは笑いを堪えながら答えていた。それを無視してクロウは管制塔に連絡を入れた。


「こちら第15個別部隊フュートランスポーター。こちら側の最終確認が終わった。そちらの連絡を待つ」

『第15個別部隊、こちら管制塔。こちらも最終確認が終わっています。発進準備を開始します』


 管制塔から通信が来た。それに続いてクロウは機械を操作し、連絡をする。

 

「了解。メインエンジン点火。周囲に障害物なし」

『了解。カタパルトを移動させます。発進先に敵影なし。安全門を閉じ、カタパルト側を密閉します』


 その通信と同時にカタパルトが横へ動き、発射台まで移動した。発射台は海からの汚染を防ぐため、入口が閉じられた。


「最終安全装置を解除」

『発射台の密閉を確認。ワープポイントを展開しました。第15個別部隊、発進してください』

「了解。発進!」


 クロウの声と同時にフュートランスポーターが高速で発進する。3人は強烈なGに歯を食いしばり、耐える。

 ワープポイントに突入すると一面が暗い紺色をした、広い空間に出た。


「アラヤ、周囲に敵影は?」

「特にない。気を抜いて大丈夫だろうよ」

「ふぅ…。毎回ここだけは疲れるな…」

「ま、発進時の事故が多いって聞くし、しょうがないね」


 敵がいないことが分かると、2人はホッと一息ついた。 そして改めてアラヤはクロウに問いかけた。

 

「てかこんな忙しい状態でよく出してくれたな?」

「なんでも本部側がターミナルに俺達の出発を要請したらしい」

「よく通ったなそれ」

「本部側の要請だからな。それに、貴重な戦力である能力者をヴァイラスの襲撃で減らしたくはないのだろう。見返りとして支援物資の増加や人員を多く送るそうだ」

「成程。ターミナルとしても渡りに舟だったってことか」


 アラヤは納得したように頷いた。だが、シュウトは自身の貴重性がいまいちピンときておらず、2人に訊ねてみることにした。

 

「やっぱりそんなに貴重なんですか?。能力者って」

「かなり貴重だな。そもそも能力者であっても、その能力が死ぬまで発現しないケースもあるからな。しかも、能力の発現のメカニズムが未だに分かっていない」


 そしてシュウトは自身がこれからどうなるのか心配で、続けて訊ねる。

 

「…あまり聞きなくはないんですけど、能力のメカニズムを知るために人体実験とかもあるんですか?」

「……昔はあったらしい。だが本人の同意がない限り、一切の解剖や実験は禁じられている。それが死後であってもだ。そこは安心するといい」

「そうなんですか…少し安心しました。」


 シュウトは安心したように一息ついた。するとアラヤが何かを思い出したように話す。


「噂によれば人工的に能力を発現させるみたいな実験もあったらしいぜ。成功したのか失敗したのかは知らないけど」

「それは聞いたことがあるな。人間ではなく、人間に近いロボットを使って能力を発現させるみたいな実験だったと聞いている。その話が本当だったとしても正直人の心を疑うな」


 3人はそんなことを話し始めて数十分後、少し先に、1つの町ぐらいある、巨大な戦艦のような建物が見えてきた、クロウはそれを確認した後、声を上げた。


「まもなく到着だ。向こうのターミナルに連絡を入れる。静かにしてくれ」


そう言うと彼は操縦桿を握りながら、機械の操作を始める。


「こちら第15個別部隊フュートランスポーター。本部からの連絡で帰還した。連絡を待つ」

『こちらコロニー1、ガーディアンズ本部。コードナンバーを照合。……確認できました。周囲の敵に気をつけながら着艦を行って下さい』


 通信を切ると目視で周囲の敵を確認をし始めた。アラヤは手元のレーダーから目を離さずに見ている。


「クロウ。周囲に敵影なしだ。今回も安全運転だな」

『着艦用レーンのナビゲーションデータを送信しました。そこにある座標に着艦を開始して下さい』

「了解。着艦する」


 コロニーの下側から着艦用のレールが出てきた。クロウはそこに合わせて操縦をする。


「着艦用レーンに接続。安全装置の装着完了。レーンを引き上げてくれ」

『接続確認。レーンを引き上げます。お疲れ様でした』


 通信を切り、レールに運ばれているのを確認したクロウは大きなため息をついて、シートの背もたれにもたれかかった。アラヤは労いの言葉を送る。


「おつかれだなクロウ。やっぱり慣れないか?」

「いや…慣れてはいるがここの作業は難しいな…」

「俺が変わってやってもいいんだぜ?」

「無茶苦茶を言うな。前に事故りかけたのはお前だろ。」

「いや。あれは接続をミスって。着艦のやり直しをしただけだろ?」

「それが嫌なんだよ。あの後かなりドヤされたんだぞ。二度と操縦なんかやらせるか。ああそうだ、マコに帰還の連絡を入れてくれ。除染作業が終わったらでいい」

「りょーかい」

 

 トランスポーターが移動を止め、3人が降りた後、トランスポーターは更に向こうへ移動していった。この後の除染作業があるからだ。そして3人も除染作業のため、滅菌室に入り、除染を受けた。

 そして3人が集まったあと、本部にある最高司令官の執務室へと向かっていく。


「これから最高司令官に合うんですよね。中継や紹介映像で見たことはあるんですけど、実際はどんな人なんですか?」

「映像と特に変わりはないと思うぜ。普通に優しくて穏やかな人だし」

「確かにフレンドリーではあるが、敬意を払うことを忘れるなよ。わかっていると思うが」


 3人は執務質の前へ立ち止まり、クロウはノックをした。


「はーい」


 中からは穏やかな声が聞こえてきた。


「第15個別部隊です。本部からの命により、帰還しました」

「あぁ、15個別部隊だね。入ってくれたまえ」

「失礼します」


 3人が中に入ると、そこには薄い茶色の髪色でミディアムロングの髪型の男性が立っており、優しい笑顔を浮かべていた。この人こそこのガーディアンズの最高司令官、「ケント」である。


「よく来たね。はるばるの帰還、息災だった。立ち話もアレだし、そこのソファーに座ってくれたまえ」

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