第2話 能力は目覚める
「怪我はないか。新人」
「大丈夫そうだな。立てるか?」
2人の声掛けにシュウトは何も答えずに、ただ呆然と彼らを見ていた。
「おい大丈夫か?。もしかして目をひらいたまんま気絶してる?」
アラヤは何も言わずにただ2人を見ているだけの彼を見て、心配そうにクロウに尋ねた。
「安全だといわれていたこの世界に、突然いるはずもないヴァイラスが現れて、目の前で人が襲われたんだ。茫然自失になるのも無理はないだろう。だがここにい続けては危険だ。はやく戻した方がいいだろう」
クロウの答えにアラヤは「そっか」と言い、シュウトの背中を少し叩いた。シュウトはびっくりしたように意識を取り戻した。
「ハッ!…。す、すいません…。えっと…貴方たちは?」
「意識を取り戻したようだな。アラヤ、彼の様子を見ていてくれ、俺は生存確認の報告をしてくる」
クロウはシュウトの様子を見るや否や、彼から少し離れて報告を行った。状況説明は全てアラヤに任せるようだ。
「おい!全部俺任せかよ!。まぁいいや、よろしく」
アラヤは渋々頷き、シュウトの問いに答えた。
「俺達は生存者の捜索をしていたんだ。まぁそういう仕事なら俺らの方が速いからね」
「成程…。助けていただきありがとうございました…」
「いいのいいの。仕事なんだしさ」
シュウトの感謝にアラヤは笑いながら返す。そしてシュウトは改めて彼を見た。薄いグリーンのバイザー型のサングラスとムールズよりも軽装な見た目から、今度は彼がアラヤに質問をした。
「その服装…。リグムスってことは、個別部隊ですか?」
「お!。しっかり勉強してんな新人!。そう。俺達は第15個別部隊さ」
アラヤは嬉しそうに笑ったあと、自身の所属を言った。シュウトは思い出したかのように急いでヘルメット部分を非表示にした。
「あ!、僕…自分の自己紹介がまだでしたね。自分はガーディアンズ訓練校、訓練生のシュウトです!。助けて頂きありがとうございました!」
「おう、よろしくな!。俺はアラヤ。んで向こうにいる生真面目っぽい奴がクロウだ。ぽいっていうか実際クソ生真面目野郎なんだけどな」
「よろしくお願いします。アラヤさん!」
「そんなに固くならなくていいぜ?。シュウト君?」
アラヤはにししと笑っているが、シュウトはまだ緊張しているようだった。
そうしているうちにクロウが戻ってきた。
「よし、生存者の報告が終わった。とりあえず彼を…」
クロウは話を中断して、険しい表情になった。それに続くようにアラヤも周りを見渡した後、1部の方向を睨みつける。
「返す前に、お掃除の時間だな。いくぞクロウ」
「あぁ。君、少し下がっているんだ。念の為武器を構えていろ!」
「は、はい!」
クロウの発言に、シュウトはすぐにヘルメットを表情した後、武器スロットから剣を選択し、彼らから少し離れたあとその剣を構えた。クロウはリグムスの唯一の装備であるガンのグリップを変形させ、ソードモードへと変形させた。アラヤはガンを変形させず、そのまま構えた。
2人が武器を構えた瞬間、潜伏していたであろう複数の蜘蛛型ヴァイラスが飛び出してきて襲いかかってきた。2人はそれらを迎撃し始める。
「ふんっ!、せや!。アラヤ!そっちに2匹程逃げたぞ!」
「任せろ!。おらァ!」
前衛はクロウに任せ、討ち漏らした敵をアラヤの射撃でカバーを行う。シュウトは武器は構えつつも、その2人の連携に見惚れていた。
「凄い連携だ…」
最初こそ完全に押し切っていたが、次々と襲いかかるヴァイラスにだんだんと2人は押されつつあった。
「くそ!。どんだけ出てくんだよ!。ザコとはいえこの量をたった2人でなんて冗談キツい!」
「くっ!……。まずいな……。君!ここの地図データを送信した!。その座標を目指して走れ!」
クロウが言った瞬間、ムールズのヘルメットの内側にあるヘッドマウントディスプレイに地図データが送られてきた。地図にはとある座標に点が入っている。
「あそこに別の隊員がいる!。すぐにそこへ逃げろ!」
「でも!」
「俺達のことは気にしなくていいぜシュウト!。早く逃げろ!」
(俺はまだ戦えない……逃げるのが1番なんだ…。だけど……このまま見殺しにすれば…、応援が来たとしても間に合わない…!)
シュウトはどうすればいいか迷い、自身の弱さを悔やんでいた。そんな彼を見てアラヤは声を荒らげる。
「クソっ!。どうしたシュウト!。早く行け!」
(俺に……俺にもっと力があれば…!)
シュウトがやっと逃げ出そうとしたそのとき、一瞬のうちに彼以外の色が全て抜け落ち、彼を覗いた全ての世界が白黒になり停止した。
「これは…いったい……?。時間が止まってるのか?…」
彼は周りを見渡す。ヴァイラスも、彼ら2人も、完全に停止している。
「いったい何が起こってるんだ…?。…っ!」
突如視界が暗転し、彼の少し先に眩い光が灯る。その眩しさから目を離すことは出来なかった。そして、彼の足は導かれるように光へと向かっていった。
「これは…剣?」
光の元には1つの剣が地面に刺さっていた。銀色のサーベルのような見た目で、柄頭には綺麗な翡翠色の宝石のようなものが埋め込まれている。
「俺を呼んでいるのか……?」
彼は恐る恐るその剣を握った。その瞬間、頭の中に言葉が流れ込んでくる。
―バッファー―
―汝、
「これは……この剣の使い方?…これは剣だけじゃなくて、自分と仲間の力を強くする効果があるのか?……」
―汝の力は汝のものなり。その力、自由に振るうがよい―
光が消えた瞬間、全ての時が動き出した。今までの静寂がヴァイラスの金切り声や銃声で掻き消されていく。そのすぐ後ろでシュウトは先程持っていた剣を逆手持ちで構える。
(力を……僕たちにっ!)
その瞬間、3人は自身の体が軽くなり、力が湧いてくるのを感じた。その変化に、思わずアラヤは叫ぶ。
「なんだこれ!?。力が…力が湧いてくる!」
「一体何が……まさか!?」
クロウは後ろを振り向いた。そこには逃げろと命令したはずのシュウトがさっきまで持っていなかった剣のようなものを持ち、ヴァイラス達に応戦している姿だった。
「…あれは…そしてこの力…!。まさか彼は能力を!?」
シュウトは素早く2人の傍に行った。背中を合わせながらクロウはシュウトに聞く。
「これはもしかして君が?」
「そうかもしれません……」
「詳しい話は後で聞く、とりあえず君は戦えるんだな?」
「できます!」
シュウトの言葉に、クロウは頷き前を向いた。
「分かった。だが、危険だと思ったときはすぐに逃げてくれ」
「はい!」
3人は飛び出した。戦っている最中、先程のクロウの言葉に驚きを隠せなかったのか、アラヤはクロウに聞いた。
「おい、いいのかよ!?。彼を逃がさなくって!」
「すべての責任は俺がとる!。彼が持っていた武器、そしてこの力。もしかしたら彼は能力者なのかもしれない!」
「能力者!?本当か!?」
「断定は出来ない。だが、ここで彼を逃がすとさっきの戦闘状態に逆戻りだ!。敵の数がさっきより少なくなっているとはいえ、彼がいないとキツイだろうな」
「なるほどね。ま、リーダーはアンタなんだ、俺はそれに従うだけさね!」
シュウトの協力により、ものの数分程で最後の敵を仕留めることが出来た。残りの敵を確認し、いないことを確認すると3人はへたりこんだ。
「や……やっと終わった……。少し休ませてくれ……」
アラヤは肩で息をしながら呟いた。クロウは息を整え、シュウトの元に行った。
「君、シュウトといったか?。応戦、感謝する。だが、我々の命令を無視したのはいただけないな?」
「は、はい……すみません……」
「いや、結果論ではあるが、君のおかげで我々も助かったようなものだ。よって今回の命令無視は不問とする」
「いいんですか?……立派な違反行為ですよ……?」
「先程も言ったが君がいなければ我々も生きていなかったからな。それとも不服か?」
「いえ!。そんなことは!」
「ならいいだろう。第一、違反行為として君の身柄を上に引き渡すことも出来るが如何せん面倒なんだ。書類なんかも書かなくてはいけないからな」
「あはは……」
クロウは少し笑いながら答えた。それにシュウトは苦笑いで返した。そのあと、クロウはすぐさま表情を戻し、真面目な表情になった。
「さて、先程のことは私がどうとでもしておく。それよりも、君が持っている剣について聞きたい。あのとき、我々に何をした?」
「あーそれ俺も気になってた。力が湧いてきたやつだろ?」
シュウトは2人に先程起こったことを話した。クロウはやはりなといった表情をした。
「はやり能力だな…君は能力者だったのか」
「違います。多分、さっき能力が覚醒したんだと思います」
「特殊な力を持った存在……。彼が能力者で、更に覚醒まで起こすとは……」
クロウは少し考え、何かを決断したようだ。
「よし、シュウト。これから君はバイタルチェックの後、我々と共に本部に来て欲しい。歩けるか?」
「できます」
「そうと決まればすぐに救護テントに急ごう。アラヤ、いつまでも座ってないですぐに行くぞ」
「わぁー!まってまって!」
移動中、クロウは思い出したようにシュウトに話しかけた。
「そういえば私の名前をまだ言ってなかったな」
「クロウさんですよね。アラヤさんが言ってました」
シュウトの言葉に、クロウは一瞬眉をしかめた。
「……彼はなんて言ってた?。怒らないから言ってくれ」
「クソ生真面目野郎って…」
「……後でシバいとくか」
クロウの呟きにシュウトは苦笑いをするしかなかった。
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