手紙が、二通。

沼津平成

第0話

 年賀状を見るたび、私は憂鬱な気分になる。そして、無意識に鏡の方へ向かう。ぼさぼさな寝癖が目にとまり、私は櫛を持って寝癖をときはじめた。ニキビのせいかもしれない。これに関しては、お小遣いがあまりないので致し方ない。

 寝癖とニキビを除けば、美人でいるつもりだ。肌もつやつやであるつもりだ。

 伸びやかなふと腿はジャックと豆の木くらい伸びるだろう。


 中学校に入学するまでは、毎年年賀状が束でまとめないといけないくらいきていた。

 その度に私は、内容が定型文とか揶揄いであったりしないことを祈りながら、結局それでも一喜一憂していたものだ。

 でも——

 中学校2年から通り雨が急に止んだかのように年賀状が来なくなった。その年は一通だけきた。ボーイフレンドの泉君だ。しかし5月に泉君とも別れたので、中学校ラストイヤーの一月は、ついに一通も来なかった。

 不思議と涙は出なかった。そんなことを予感していたからかもしれない。つまり私は前倒しで泣いていたのか。狐に化かされたような気持ちになり私は俯いた。

 小学校の頃よく読んだ小説が見えた。トム・ソーヤの冒険は珍しく購入した本だ。カバーは汚れていて。背表紙は破けていた。しかし、私は小説を手に取った。

 

「トム・ソーヤ」は古書独特のチョコレートみたいな香りがした。私は、いつの間にかバレンタインに思いを馳せていた。手が止まっていることを自覚していた。

「来年のバレンタインは、頑張るか……」

 現在高2、夏を謳歌中の冴(私)は、ベッドから跳ね起きた。最高なはずの土曜日が、本格的に始まった。

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