第4話 絶体絶命


「ヴィクトル…なぜ…?」


誠司は驚きを隠せない。集落の長老は地面に崩れ落ち、恐怖に震えている。一体どうやって、秘密警察は二人の居場所を突き止めたのか?


「なぜって?簡単さ。この国に、我々の目から逃れられる場所などないからだ」


ヴィクトルは勝ち誇ったように言った。彼の背後には、重装備の兵士たちが銃を構えている。逃げ道は完全に塞がれた。


「諦めろ、斎藤誠司。お前はもう逃げられない」


ヴィクトルは冷酷な目で誠司を見据えた。


「大人しく投降すれば、苦痛は与えない。だが、抵抗すれば…」


ヴィクトルは言葉を止め、ニヤリと笑った。その表情は、まるで獲物を追い詰めた獣のようだった。


「お前たちの運命は、この俺が握っている」


誠司は咲子を見た。彼女の顔は恐怖で蒼白になっている。だが、その瞳には、まだ諦めの色は見えなかった。


「誠司さん…」


咲子は小さく呟いた。


「どうするんですか…?」


誠司は決断を迫られた。抵抗すれば、咲子を危険にさらすことになる。だが、大人しく捕まれば、機密文書の謎を解き明かすことはできない。


「くそっ…」


誠司は歯ぎしりした。


その時、集落の奥から、一人の男が現れた。それは、二人を助けてくれた、顔に傷を持つ大男だった。


「!」


誠司と咲子は驚きのあまり、声を失った。


大男は秘密警察の兵士たちを一瞥すると、低い声で言った。


「お前たち、まだ生きていたのか」


「あ…あなたは…」


咲子は言葉を詰まらせた。


大男は二人の前に立ち、秘密警察の兵士たちを睨みつけた。


「この者たちに、手出しはさせん」


大男の言葉に、兵士たちは一瞬たじろいだ。ヴィクトルは怒りを露わにした。


「貴様は…何者だ!?」


「俺の名は…イワンだ」


大男は静かに言った。


「そして、お前たちの邪魔をする者だ」


「イワン…?」


誠司は呟いた。その名前は、どこかで聞いたことがあるような気がした。


イワンは懐からナイフを取り出した。刃は鈍く光り、殺気を放っている。


「来い、秘密警察!」


イワンは叫んだ。


「俺が相手だ!」


イワンは兵士たちに突進した。その姿は、まるで猛獣のようだった。兵士たちは銃を乱射するが、イワンはそれを巧みにかわし、次々と兵士たちを倒していく。


「なんて…強さだ…」


誠司は驚愕した。


「イワン…一体何者なんだ…?」


咲子は呟いた。


イワンは一人で、秘密警察の部隊を相手に互角に渡り合っている。だが、兵士の数は多く、次第にイワンは追い詰められていく。


「くそっ…!」


誠司は歯ぎしりした。


「このままじゃ、イワンが…」


その時、誠司は閃いた。


「咲子!例のブレスレットを使え!」


「え…でも…」


咲子は戸惑った。


「いいから!早く!」


誠司は叫んだ。


咲子は渋々、腕につけたブレスレットを外した。それは、誠司が咲子にプレゼントした、護身用のブレスレットだった。ブレスレットには、小型のスタンガンが仕込まれている。


咲子はブレスレットのスイッチを押した。ブレスレットから電流が流れ、近くの兵士たちが感電して倒れた。


「よし!」


誠司は叫んだ。


「今だ!逃げろ!」


誠司と咲子は、混乱に乗じて、その場から逃げ出した。イワンもまた、兵士たちの隙を突いて、森の中へと姿を消した。


ヴィクトルは、逃げる二人を見て、怒りを爆発させた。


「逃がすな!追え!」


ヴィクトルは兵士たちに命じた。


兵士たちは、二人を追って、森の中へと走り去った。


森の中は薄暗く、木々が密生している。二人は息を切らしながら、必死に逃げ続けた。


「大丈夫ですか…誠司さん…?」


咲子は息を切らしながら尋ねた。


「ああ…大丈夫だ…」


誠司は答えた。


だが、二人の表情は暗い。イワンは、一体何者なのか?そして、秘密警察は、なぜ二人を執拗に追うのか?


謎は深まるばかりだった。


二人は、深い森の中へと姿を消した。彼らの逃亡劇は、まだ終わらない。


(第四話・終)

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