第12話「脱落ゲーム」
翌日、朝食を終えた私はふとリビングを見渡す。分かってはいるけど、晶君の姿はどこにもない。まだ一人いなくなってしまっただけなのに、大事なネジが欠けた機械のような虚しさが胸に居座り続ける。彼はショウちゃんではなかったから諦めは簡単につく。だけど、同じようにショウちゃんの可能性を虱潰しに探りながら、今後も出演者が減っていく様を眺め続けると思うと心苦しい。
「何しけた顔してるのよ」
お腹がいっぱいになっても心が満たされない私の肩に、紅麗葉さんが優しく手を乗せる。背が高くスラッとしたモデルのようなプロポーションの持ち主である彼女は、近くから見るとその美しさがはっきりと確認できる。
「そういう番組なんだから仕方ないじゃない。嫌なことは考えないで、とりあえず今日も遊びましょ!」
「ありがとうございます」
脱落者が出た悲しみが心に残り、あまり元気がない出演者達。それを見かねた紅麗葉さんは、みんなを海に誘う。難しいことは一旦忘れて遊ぼうと提案する。凄いなぁ。これが姉御肌というやつだろうか。暗く沈みかけた現場に眩しい光を灯す。
「ほら、希未子も!」
「は? なんで私g……」
紅麗葉さんは一応希未子ちゃんも誘う。他の出演者との親交を拒む彼女は断ろうとするが、既に廊下でカメラが向けられていることに気付く。一度男性からの告白を断っている上に、ここであからさまに距離を置いている姿を見せてしまっては、更に印象を悪くしてしまう。そもそも、視聴者の前で本性をさらけ出すわけにはいかないだろう。
「そうね〜、遊びましょ♪」
希未子ちゃんは不本意ながらも誘いに乗る。無邪気に遊びに向かう明るい女の子の姿をカメラに見せてはいるけど、ピクピクと震える目尻が無理にみんなと合わせてストレスを感じていることを示している。彼女が演技をしていることを知っている紅麗葉さんは、ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべる。
「見て麻里奈! 凄く可愛い水着があるよ!」
「ほんとだ」
「あ、祥太郎君、みんなもおいでよ! 一緒に海行こ!」
「おっ、いいね〜」
ペンションでは水着の貸し出しもしているようだ。女性出演者達は各々好きな水着を選び、更衣室に向かう。紅麗葉さんは賑やかな雰囲気につられ、リビングにぞろぞろと集まってきた男性達も誘う。男性達も各々自分の水着を選び、更衣室へと向かう。
「また君達のような美少女達にお誘いいただけるとは、実に光栄だよ」
「ふぇっ、はっ、び、美少女……///」
胸元を大胆に開けた真治さんが、紅麗葉さんに向けて紳士的な笑みを浮かべる。私達の頼もしいお姉さんだった紅麗葉さんも、彼を前にすると麗らかな乙女になってしまうらしい。彼の笑顔の眩しさに一瞬で頬を赤く染められている。
「真治く〜ん! 私の水着どぉ〜?」
「希未子さんも凄く似合ってるよ」
「えへへ〜、ありがとう♪」
真治さんと紅麗葉さんの間に、希未子ちゃんがわ無理やり乱入する。希未子ちゃんは抜群のプロポーションを見せつけ、真治さんの視線を奪う。小柄な体型の割に胸は豊満で、大胆な黒ビキニがとてもセクシーだ。紅麗葉さんも白ビキニで対抗しているけど、天使のような愛くるしさ(作り物)には敵わないようで、あからさまに嫉妬している。
「……」
「翔也君?」
「え? あっ、えっと……」
私は更衣室から出てきた翔也君と目が合った。彼も黒のラッシュガードに着替えており、開いた胸元から見事なシックスパックが顔を出していた。日頃から何かスポーツでもしてるのかな。男らしくたくましい体つきに、私はいつの間にか目が釘付けになっていた。
「カッコいいね、その水着」
「お……おう、サンキュー。えっと、お前も似合ってると思うぞ、その水着」
「あ、ありがとう……///」
私の水着は、レースの付いた薄いピンクのフレアビキニだ。胸元には薄い赤色のリボンがあしらわれていて、腰にはガーリーな花柄のミニスカートを巻いている。水着だけが華やかで、私の貧相な体とは釣り合わないのではと心配していた。
幸いにも男性には好評のようだ。記憶を失う以前の私が、ショウちゃん以外の男性とどれだけ交友を持っていたかは定かではない。ただ、覚えていないのであればほぼ無のようなもので、異性にはっきりと似合ってると公言されることが恥ずかしい。
「さてと、どうする? またビーチバレーでも……」
ピピピッ
ふと、出演者用に支給されたスマフォにメールが届いた。昨日の晶君の脱落通達もそうだけど、番組に何かしらの大きな動きがあると、不定期にメールが送られてきてその内容を知らされる。
『午前10時より、脱落ゲームを開始します。出演者はビーチに集合してください』
「え……?」
「みんな集まったな」
出演者が全員ビーチに集まったところで、プロデューサーの後藤さんが説明を始める。せっかくみんなで水着に着替え、楽しく遊ぼうとしているタイミングでの招集だ。しかも内容が内容だけに、緊迫した空気が私達を出迎える。
「これから不定期に開催する脱落ゲームを始める。このゲームで出演者のうちの一人が脱落し、番組への出演権を失う。心してかかるように」
まるで囚人達を取り締まる警官のように注意喚起をする後藤さん。みんなは眉をひそめながら彼を眺める。今回はゲームだから、勝負の末に実力が及ばない者が去ることになる。また仲間を失う悲しみを味わわなければならないのか。いや、下手すれば自分が脱落してしまうかもしれない。
「今回行うのは、ビーチフラッグリレーだ。君達はスタートの合図で一斉に走り出し、50m先に立ててあるビーチフラッグを掴み取ったらゴールだ。ただし、ビーチフラッグは全部で8本しかない。つまり、最下位になった者が脱落となる」
後藤さんが淡々とルールを説明する。脱落ゲームと呼んではいるけど、特に身構える必要がない単純なルールだった。それでも、単純故にこのゲーム一つ落とした時の今後の運命が大きい。リレーというシンプルな体力勝負なのだから。
「ちょっと待ってください。リレーって言ってますけど、もしかして男女混合で走るんですか?」
「もちろんだ。男だろうが女だろうが、全員に平等に恋愛を謳歌する権利が与えられなければならない。ハンデを作るつもりはないよ」
え……どうやら男女合同で走るらしい。しかも、女性は男性とも対等に戦えるように、走行距離を少なくするといった配慮がされるわけではない。性別を無視した完全なる体力勝負だった。確かに条件的には平等ではあるかもしれないけど、体力の少ない女性の方が圧倒的に不利だ。
「さぁみんな、位置について」
「そんなぁ……」
「私、自信ないです……」
「やるしかないか……」
ぞろぞろと砂浜に引かれた白いスタートラインに立つ私達。遥か前方……と表現するのは大げさかもしれない。だけど男女合同での競争で、しかも真夏の炎天下となると、たかが50メートル先のゴールもそう表現してしまいたくなる。とにかく、遥か前方に立てられた旗が異様に小さく見える。不公平なゲームに自信を狩られ、視界がますます不利な状況を鮮明に映そうとしている。
「よーい……」
でも、やるしかない。こんなところで脱落していたら、ショウちゃん探しどころではなくなってしまう。彼と心から再会したいと望むなら、どんな試練でも乗り越えなくてはならない。私はにじみ出る汗を無理やり拭い、息と体勢を整える。
パンッ!
ADさんが握るピストルが、けたたましい音を鳴らした。次の瞬間、出演者は勢いよく砂浜を蹴り、走り出した。欲望と闘争に塗れた脱落ゲームの始まりだ。
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