第30話
ここに建てられている全ての収監塔が現在の建築技術では再現不可能と言われているのも無理はないと、貴方の思考を散じさせ、四方八方に霧散させる。
寸分も違わぬ尺度での建築物、そしてそれらが空中にて無数に交叉している回廊で繋がり、行き来できるという事実。頭上を見ればなるほど、回廊は支えも無しに塔と塔の間を繋ぐように行き交い、淡い暖色の温かな灯りをふわりと浮かせるように幾つも散らし、見事と言わざるを得ない景観を獲得しているのが分かる。
広く厚い黒鉄で覆われた監獄内では青空を仰ぐことも叶わない。が、然れども、そのような文句を黙らせるだけの幻想的な光景が、収監者の心を休ませるように、反抗を忘れさせるように、監獄内と思えぬ玄妙と安息を齎しているのだ。
貴方は視界に広がる幻想に飲まれかけた己を叱咤し、目的の場所に向かう。
司祭から聞いた話が確かなら、ゴルゴタの監獄における最高責任者である獄長は、監獄の中央に建っている最終処刑塔に住み込んでいるとのことである。
塔と塔の間を渡る大通りを、貴方は無心で歩みゆく。
大通りは幅を広く取っており、面も平らに均され、歩きやすいことこの上ない。
通りの両脇には青々とした葉を茂らせた立派な樹々が並んでおり、ところどころに、椅子とテーブルが設置された休息スペースが置かれている。
何よりも貴方の心を大きく騒がせるのは、貴方が落ち着くように努めている理由として挙げられるのは、通りを何事もなく歩行している、収監者と思われる人々の存在である。
なにしろ、大通りを歩くその人々は監獄の外で暮らしている人々と変わらぬ笑みを浮かべているのだ。隣人と笑いながら歩き、休息スペースで軽食を取って和やかに過ごし、ここでの生活を満喫しているように見えるからである。
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