第29話
刑務官は緊張を僅かに滲ませながら、貴方の挙動を注視する。
貴方としては別段、警戒される重要性を持たないと自認している。
ゆえに、貴方は懐からゆっくりと、司祭から手渡された封筒を取り出した。
封筒に捺された封蝋の印章を刑務官に見せ、表向きの用件を話して聞かせる。
貴方の説明を聞いて、刑務官は得心したらしい。
安堵の表情を浮かべて頷いた。
「ありがとうございます。その件につきましては、確かに上から伺っております。このような辺境の地にようこそおいで下さいました。よろしくお願い致します」
刑務官が深々と頭を貴方に下げる内に、正面に聳える大正門が開いてゆく。
金属質の高音が地面を引っ掻く音に紛れて、重厚な鐘の音が空高く響く。
それはさながら、この世ならざる異界の門が開かれたかの如き圧倒的な光景で、非現実的な幻想色を多分に含んだものである。現実から地獄へと引き擦り込まれるかのような異質の感覚が、平常とは異なる緊張の重圧を貴方へと与えた。
刑務官に馬を預け、貴方は大正門をゆっくりと通り抜ける。
抜けた先には、セントルイスとは似ても似つかぬ無機質な文化が聳えていた。
黒い石で円柱状に組み上げた、見上げるほどに高い塔が建っている。
その外壁に軽く触れてみれば、硬質でありながら滑らかでもあり、柔らかさすら感じさせる妙な質感だ。階の上層には外の景色を映すためか、複数の箇所において薄く透明な硝子まで張られている。
それが一基と言わず、数十基に及んでいるのだから、恐れ入らざるを得ない。
どれだけの石を切り出し、運び出し、組み上げて、磨き上げたのか。どれほどの月日を掛けて仕上げたのか。幾ら想像を働かせても及ばぬほどに、歪みの見られぬ均整のとれた塔の群が区画によって整理され、規則正しく並んでいる。
これら全てが罪人を収監するためだけを目的に建てられた施設だというのであるから、およそ、人の築き上げてきた技術体系や論理的思考に連なっているものとは認め難い。
地上にいる全ての者共をこの豊かな監獄に収めんとし、神々によって建てられたのだという伝説も、あながち馬鹿にはできない、と貴方などは思うのだ。
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