第31話
しかし、決して外で暮らす人々と同じでないことを示すように、その首には確りと枷が嵌められている。その枷は黒一色で染められており、尋常でないほどの神秘が込められているように思われる。
恐らくは黒曜の神による、加護の一種なのだろう。
監獄内部であれば自由な生活を保障されているように見えることから考慮するに、異形と化するのを抑える効果か、遅らせるための効果などが枷から付与されているのだと思われた。
――ともあれ、人が人らしく在れるようで良かった。
たとえ異端の信仰・思想を持つ者であろうと、価値観の異なる道を歩む者たちであろうとも、貴方は相手が人間としての生を歩めているように見え、安堵の気持ちを抱くのだ。
監獄内で過ごさねばならぬという境遇に関しては、一切、見て見ぬ振りをして。
それらが欺瞞に過ぎないことをも、少しも気付かぬ振りをして。
【ゴルゴタの監獄・最終処刑塔】
監獄の中央広場に建つその処刑塔は、他の塔とは明らかに異なり、さながら貴族の館の如き外観を擁していた。
その館の前庭で、首に枷を嵌められた老人と子どもが作業着を確りと身に纏い、薄闇色の花弁を持つ植物たちの手入れを丁寧に行っている。その手入れは見るからに手慣れている様子で、彼らが優秀な庭師であることを窺わせる。
貴方が足を止めて感心しているうちに、子どもは貴方の視線に気付いたらしい。老人に声を掛けた後、作業を止めて館の裏に走り去ってゆく。
老人も僅かに遅れて手を止め、貴方の方に向き直り、その頭を深く下げた。
貴方は老人に会釈を返し、そのままその場で静観の態度を取る。
処刑塔であろう館に向かわないのは、黙って待っていれば案内の者が来るだろうと見越しての判断だ。
子どもは貴方の到来を上に知らせるべく館に走り去ったのだろうし、老人も時間を稼ぐために、貴方に頭を下げ続けているのだろう。
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