第21話

 【異形の怪物――白き人狼】


 殺意の圧を飛ばした人狼は貴方が少しも身動ぎしないことを認識すると、上半身を屈めて両の腕を足元に置き、腿の筋肉を肥大化させて力を溜めていく。膨れ上がった大腿筋は人狼の肉体を容易に、そして即座に貴方の元へと運ぶだろう。


 そうと察した貴方は左手で短銃を掴むと同時に、狙いも定めず即座に撃った。

 二発、ほぼ同時に飛翔した弾丸は狙いを定めていないにも関わらず、人狼の大腿筋へと吸い込まれるように命中する。


 かに見えたが――。


 貴方が動いた瞬間、大腿に人狼は溜めていた力を解放し、銃弾が自身に届くよりも早くその場から横へと跳躍していた。


 爆発にも似た粉塵を巻き上げ、人狼はその場から姿を消す。

 広場から外れ、左右の闇に姿を紛れさせ、貴方へと接近するつもりなのだろう。

 左手側に跳躍した人狼を視認した貴方は、その気配が依然として近くにあることを知覚できている。慌てることなく広場の中央へと移動し、そして辺りを睥睨する。


 人狼は止まることなく周囲の木々を踏み場として、跳躍を用いた移動を繰り返している。広場の中央にいる貴方の背後を取るかのようであり、隙を見出すかのようでもある。


 人狼に逃げる気が無いことを改めて認識した貴方は辺りへの睥睨を辞め、いつでも鋸鉈を振るえるように構えて止まり、視線を自身の足元へと向け、敵が襲い掛かってくるのを待った。

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