第18話
そのように晒し出されている隙に漬け込まない理由は、貴方に無い。
短銃を腰元から抜き出し、安全装置を外して狙いを定める。
狙うは胴体ではなく、それよりやや下の位置にある、後ろ足の付け根だ。
胴体に次いで狙いを定めやすい上に、怪物の優れた身体能力を殺ぐことができる。
獣の形をした怪物は得てして生命力が高く、そして機動性も優れている。
胴体を撃った程度ではその機動性を鈍らせることはできないため、多少の狙い難さはあるが、脚部を狙って撃った方が後々になって有利に働いてくるのである。
集中し、呼吸を殺し、狙いを一点に絞り上げ、貴方は短銃の引き金を引いた。
音よりも早く黒き銃弾が飛翔し、狙い違わず白狼の後ろ足の付け根に当たる。
鋭く抉り込むように回転しながら皮膜と脂肉を破って体内へと捩じ入った銃弾は、その身体に流れている白き血に触れた瞬間、黒い火花を散らして炸裂した。
一拍遅れて銃声と、白狼の悲鳴が辺りに響く。
銃弾の命中した白狼の後ろ足は、その付け根から白い血液を噴出させ、肉が抉れて千切れかけながらも、しかし貴方が見ている内に傷口周辺の肉が膨れ上がっていき、傷口を覆うようにして回復し始めている。
軍隊でも手を焼くという怪物の厄介なところは、その並外れた治癒能力にある。
致命の傷を一撃で与えられるのなら問題ないが、そうでない場合にはすぐに傷口が修復されるのだ。
傷を刻み、多少の血液は流せることができようとも、その不死性とも称される高い継戦能力は討伐者の戦意をこれ以上無く挫く。加えて、少なくない焦りと惑いを生み出すことにも繋がっている。そうして生じたその隙を、怪物は逃さず利用するのだ。
貴方の場合においては、隙が生じる筈もない。
なにしろ、怪物討伐の専門家たる断罪者であるがゆえに。
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