第16話
貴方は間借りしていた倉庫の扉をゆっくりと開いて外へと出た。
辺りは既に薄闇が降りており、立ち込める灰雲も相まってなおさら暗く思える。
闇夜を照らす白い月は雲に阻まれ、その光を朧気に淡く飛散させており、小さな星々の輝きにおいては光の欠片すら窺うことはできない。
討伐には向かず、怪物にとって動きやすい状況だと貴方は判断する。
しかし貴方の辞書に撤退の文字は無い。この程度の悪状況で討伐を延期するような弱い思考は、怪物討伐の専門家として見られる断罪者には求められていないからだ。
如何なる状況に置かれようとも、周囲の環境と事物を観察して利用し、最も有効と思われる手段を用いて一刻も早く怪物を完全に断罪する。
それのみが、断罪者たる貴方に求められている唯一の使命であり、そして貴方の持っている偽らざる感情でもある。
夜目に切り替えて辺りを見遣ると、村の門は既に閉じられ、見張りの村人が矢倉に立ち、外へと神経を張っているのが視て取れる。
貴方は村人にわざわざ門を開けさせる必要も無いとし、近くの木柵に手足を掛け、腕と足の力を合わせて柵を一気に飛び越えた。
気配も音も立てずに為したため、村人が気付いた様子は無い。
恐らくは、漂っている空気の重さの所為もあるだろう。
雨が近いのか空気に含まれる湿度が高く、身体に掛かる負担が意識に障らぬ程度に増し、眠気を誘い、集中を妨げるのだ。
貴方は手早く怪物を倒すことを決め、村長から聞いた畑の跡へと向かう。
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