第12話

 【回想:セントルイス郊外・東端の開拓村】


 農業都市セントルイスの防壁外には、幾つかの開拓村が点在している。

 それらは農業都市内において育てられない作物や、より多くの実りを得られるよう品種の改良を施した栽培物の実験場としての意味合いが強い。開拓村の開拓とは土地を獲得して拓いていくだけではない。農作物の品種改良において特に、その意味合いが強いのだ。


 貴方が要請を受けたのも、そうした開拓村の一つであった。


 セントルイスから東に向かって約二十キロメートルの位置に、その開拓村はある。

 麦の穂波が方形状に広がった畑が並び、その合間にぽつぽつと木組みの家が建っている。畑に分け入って農作業をしている人々の気配を馬上から見守りつつ、貴方は家々の建つ村の中へと進んでゆく。


 村を囲む木柵の中では鶏や豚といった家畜が放し飼いにされていて、牧歌的な光景を作り出している。村人は全員が畑作業に出ているためか、気配が無くて閑散としている印象だ。


 馬を入口に待たせた貴方は、迷う素振りも見せずに村長の家へと歩みを進める。


 周りの家々より一回り大きな家が村長の住む宅であろうと見込んでのことだ。

 違っていたら違っていたでも良い。他の家々を回っていけばそのうち当たりがつくだろうとの判断もあった。


「――怪物は、大きな狼のような形をしておりました」


 出されたお茶に口を付けながら、貴方は村長の話を聞く。

 体長二メートルほどもある怪物は少し前、開拓村の東から現れたとのことらしい。


 血走った眼を爛々と輝かせ、麦畑の一つを荒らし回ったのだという。

 作業を休憩していたときの出来事であったため、村人が襲われなかったことだけが不幸中の幸いだったとは村長の言だ。


 下手に手を出しては怒りを買って殺される可能性が高いと判断し、そのまま動向を村の矢倉から見張っていたものの、怪物は特に畑を荒らす以外のことはせず、やがて北部にある小さな森へ去ったという。


「そして、森に棲みついたのでしょう。昨夜もまた現れ、畑の麦を喰い荒らした後、森へと戻っていきました」


 人を襲う意思や素振りは見えなかったものの、しかし作物を荒らされるのは困る。

 困った顔で語る村長に、貴方は怪物の討伐をその場で受諾した。

 相手が群れでなく一匹であるならば、取り逃がす心配はないと判断してのことだ。

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