第8話
早いうちから起き、身の回りと部屋を軽く清め、聖書を持って礼拝室へと赴く。
礼拝室では既に司祭が女神像の前で膝をつき、一心に祈っていることが多い。
完全に気配を秘め、その意識を奥の深みに至らしめ、精神を集中させている。
貴方は司祭に軽く頭を下げ、そして女神像に頭を下げると、礼拝室を清め始める。
礼拝室は然程に広くはない。五十人ほどが入れる程度の、こぢんまりとした造りの石部屋だ。
貴方は水に濡らした布切れを巻きつけた箒を用い、塵と埃を掃いて纏め、使い捨ての塵取りで回収すると、それを外の定位置に置いておく。
後で業者が荷車を引いて街を巡り、置かれた物を回収していくというシステムだ。
塵取りを置いた後に礼拝室に戻った貴方は、箒に巻いた襤褸布とは別の濡れ雑巾で白い壁を丁寧に拭いてゆく。壁は白く乾いた石壁であり、拭いた先から水分を吸い、部屋に一定の湿度をもたらしてくれる。
礼拝室の清めが終わると、貴方もまた司祭と同じように膝をつき、両の手を拳に握って胸の前に置き、女神像を通した先にいるとされる黒曜に祈りを捧げる。
涼やかな静謐が部屋を満たしていることもあり、貴方の心身は落ち着いてゆく。
祈りの際には目を閉じても良いし、閉じなくても良い。
目を閉じて祈るときには闇の中に貴方一人が存在し、然れども、すぐ近くに暖かな存在がいると分かる。目を開けたときには、女神像から穏やかな視線を感じるときがある。
教義に照らせば、その暖かな存在が黒曜の神なのだそうである。
それが事実であるならば、貴方は黒曜の神から相当に目を掛けられているようにも思われる。が、貴方はそのことについてあまり気にしたことはない。貴方の周囲の人々もまた、その暖かみが当たり前であり、気にする素振りを見せないためだ。
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