第7話

 【セントルイス教区街・黒曜教会】


 農業都市セントルイスは中央大陸西部のライル地域において、主産業が農業に特化している唯一の街である。


 その成り立ちには幾十もの農村が合併してできたという経緯があり、文明・文化的に豊かとは言えないものの、近隣諸国に農産物を主として多く輸出しているため、『ライルの食料庫』と呼ばれて重宝されている。


 毎年のように少なくない数の入植者や観光者が訪れるのは、治安が定まり、住んでいる人々の顔に温かな表情があり、過ごしやすい気風に満ちているためだろう。


 その気風の一端を担っている施設として、黒曜教会は無視できない存在だ。

 なぜならこの都市に散在している黒曜教会もまた、人々に仇為す怪物の討伐を引き受けているからである。


 そして貴方は、そんな幾つもある黒曜教会に属している聖職者の一人だ。


 それも一般の聖職者ではなく、怪物討伐を主務としている武闘派聖職者である。

 武闘派聖職者は一般的に『断罪者』と呼ばれており、罪業を重ねて異形化した者の身を、その身に染まった罪業を断ち切り、獣臭に澱んだ魂を救済するとされている。


 セントルイス教区における断罪者は貴方を含めて十指に満たず、いずれの断罪者も日々出没する怪物の討伐任務を負ってライル地域の彼方此方を飛び回っている。


 現在、セントルイスの黒曜教会に居る断罪者は貴方一人のみである。

 他の断罪者は討伐任務に出ていて不在であり、貴方は非常の事態に備え、街に一人残っているのだ。

 それゆえに、一般の聖職者と同じように日々の雑務をこなさなくてはならないが、貴方は異形と化した者を討伐するよりも、一般の聖職者としてこなす雑務の方が好きであった。

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