第6話

 黒曜教会は人々に対して『黒曜』と呼ばれる神への信仰を説き、得られる恩恵を説き、理念から成る導きを説き、そして実践してみせたのだ。


 その実践とは、教会に属する武闘派聖職者による、怪物の捕獲・討伐である。


 軍隊ですら手を焼いた怪物討伐を聖職者が、それも寡数によって討伐する。

 その事実は村を、街を、そして国家を大いに揺るがした。

 良きにしろ悪しきにしろ、黒曜教会という組織は此度の件によって有名となり、正式とはいかなかったものの、国教に近しい高き地位と強き権威を手に入れることになったのである。


 また、黒曜教会は人間が怪物になる現象についても言及した。


 異形化現象は旧き神々が人間に課した血の呪縛によるものであり、生まれながらの罪業として負わされたものによると説いたのである。

 人々の体内に流れる白き血は獣にも同様に流れており、その血は重ねた罪業によって濁って腐敗し、人々の理知性を混濁させ、肉体を旧き獣に回顧させるものであるのだ、と。


 それゆえ黒曜教会は人間の体内に流れている白き血を、黒曜の神の加護によって黒く染め上げ、人間が生まれながらに背負わされた呪縛と罪業を浄化することで、異形の怪物となるのを防ぐことができると布告し、人間としての誇りを守護せねばならぬと宣告したのである。


 決して怪物にならぬように。

 人間としての生涯を全うできるように。


 そのように、黒曜教会に入ることを推奨したのである。

 黒曜たる神に信仰を捧げ、神の加護によって黒き血を、その身に受け入れるように説いたのである。


 その胡乱な宣告に、当初は国中が紛糾した。

 しかしそれも、異形化という手に負いきれない現実的な問題を前にしては議論の余地を持てなかった。

 多くの信仰者が黒曜を信仰して加護を賜り、獣とは異なる色の黒き血をその身に受け、決して怪物にはならないという安心を得ることを、秩序ある生活を取り戻すことを、選択したのである。


 尤も、黒曜の神を信仰することなく、獣と等しい白き血のまま生きてゆく。

 その様な生き方を選択した人々も、少なからずいたのではあるけれども。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る