第5話

 黒曜教会は『黒曜』と呼ばれる神を信仰する、ライル地域発祥の宗教である。

 ライルには信仰形態が百を数えるほどに存在しており、黒曜教会はその内の細々とした小さなコミュニティに過ぎなかった。

 極々僅かな人々の信仰対象でしかなかった黒曜が多くの人々から厚く信仰されるに至ったのは、突如として発生した人間の異形化が発端としてある。


 人間の異形化とはつまり、人間の肉体が劇的に変貌することを意味している。

 だけでなく、それらは理性と知性とを失い、相互理解に必要な言語をも失って、近くにいる家畜や人々を積極的に襲う災厄の怪物と化したのだ。


 怪物は日に日に増殖し、瞬く内に人々の脅威となった。

 その腕力は人間の肉体を易々と破壊できる程に強力で、外皮はライフルの弾すら通らぬほどに硬い。身のこなしは俊敏で、野生の獣にも劣らぬ俊敏性を持ち、過去に類を見ない強力な生命体だったのである。


 村や街の自警などでは数を集め束ねても敵わず、国家が抱える軍隊の動員が必要とされるほどであったといえば、その脅威の程度が分かるだろう。


 だが、討伐可能だとはいえ、いつでも軍隊の動員が許可されるわけではない。


 怪物による犠牲者は民間だけでなく軍隊においても常に存在していた。

 亡くなった者たちの親族に払う金銭や保障、破壊された場所の復興費、人件費、資材費、その他諸々の出費も多数あり、軍隊の出動による怪物討伐は次第に頻度を減らしていき、限り無く湧き出てくる怪物の出現に追いつかなくなっていった。


 ゆえに当然、怪物による被害は加速度的に増加していくこととなる。

 人々の安全と秩序ある穏やかな生活は底に落とされ、暗澹たるものとなってゆく――はずであった。


 というのは、軍隊に代わって怪物討伐を担う勢力が現れ始めたからである。

 この勢力というのが、黒曜教会であった。

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