第4話
その瞬間――、
***
――貴方は振るわれた怪物の腕に対し、右手の得物で迎撃した。
その武器は大きな鉈のような大振りの刃物だが、峰の部分はさながら鋸の如くであり、鋭く尖った小さな刃が幾十枚も生えている。
その武器は怪物の右腕を一瞬で啄み、毛肌に食い込み、貴方が勢いよく腕を払うと同時に、怪物の腕を荒々しく喰い散らかしてゆく。
腕の毛皮と肉が無残に毟られたことにより、怪物は聞くも悍ましい獣性の悲鳴を上げた。突如の反撃に驚いたがゆえであろう、激痛に耐えかねたがゆえであろう、怪物は大きな怯みを見せて、その場から跳び退くように後退る。
見ればその腕からは骨の幹が露わとなり、手酷く裂かれた肉からは白色に濁った大量の血液が逃げ場を求め湧いて噴き出し、腕の剛毛を濡らして伝い、垂れ落ち、ぬるりどろりと大地を穢して染めてゆく。
痛みに呻く怪物の、その僅かに見せた硬直を、貴方は決して逃しはしない。
両の足先に力を入れて一歩で瞬時に間合いを詰め切り、その一歩に掛かった速度と体重移動を攻撃力へと変え、再び右手の得物を振るう。
豪速で振るわれた重撃は武器の重さも相まって、咄嗟に防御として差し込まれた怪物の左腕を一振りにて断ち切るに至った。
舞い上がる左腕部は白血を振り撒きながら宙を回る。
それに見向きもせず、怪物は腕の断面から噴き出す白血を抑え込む。
されど指の間から白血は止まらずに漏れ出し続け、慌てふためく怪物に、貴方は微かな躊躇も見せずに追撃を行う。
振り切った腕の勢いをそのまま活かし、振り子のように元の軌道をなぞって振り上げる。隙の少ないその連撃を、怪物は避ける手段を持たない。
貴方の得物は怪物の首根にがっちりと刃身を噛ませ、同時に強く、引き戻されることによって、その首根を骨ごと削り落とした。
怪物の頭部はそのまま無造作に地へと落ち、首を失った胴体は白血を噴水のように勢いよく噴出しながらも力を失い、そのまま大地に揺らめきながら倒れ込む。
しばし残心をとっていた貴方だったが、怪物の肉体が完全にその生命力を失って霧散したことを目視で確認すると、愛用している右手の武器に布を当て、白の返り血を拭ってゆく。
――
貴方の頭上には、いつかの日にも浮かんでいた白く丸い大きな月があった。
それは仄かな白い光を、闇夜に佇む貴方に向かって、静かに注ぎ続けている。
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