カエデ

吹田俄

カエデ

 これは友人から聞いた話だ。その友人は大学生時代に特別養護老人ホームの介護のバイトをしていた。大学の下宿先から近く短い時間だけ働くことが出来たので応募したらしい。仕事内容はご老人たちを食堂まで連れて行きその間にベットのシーツを変えたり、掃除を行うと言うものだった。

 バイトを初めて数日が経った頃ある老人のことが気になったという。と言うのもその老人は「カエデ…、カエデの木」とぶつぶつと呟いていたつと言うのだ。他のご老人の中にも少し変わったことを言っている人がいたが、その老人は他の人とは違い独り言がどこか気になると言うか不気味な感じがしたらしいのだ。友人はその老人について気になり、バイトの休憩時間に一緒に働いている介護士の人にその老人について尋ねてみたと言う。どうやら言い方が悪いがボケてしまっているらしくあまり喋ることもなくただぼーっとしているという。確かに少し変わっている感じはするが特別気になるほどではないと介護士は言っていたらしい。友人はついでにその老人が若いころ何をしていたか尋ねた。介護士が言うには園芸関係の仕事をしていたらしく、その老人は公園に花などを植えるというような仕事をしていたという。だからカエデなどと呟いていたのかと納得しようとしたのだが、やはりどこか違和感と言うかなんと言うかもやもやとした感じが残ったというのだ。

 ある日部屋の掃除をしようと各部屋を確認しているときにその老人が食堂に行かずに部屋のテレビを見ていた。「〇〇さんご飯の時間ですよ、さあみなさん行ってますから、ほら」、返事はなくまだテレビを見ていた。テレビではニュースが流れていて、**記念公園についてのニュースだった。どうやらその公園は再開発によって潰されて新しく公共施設が建つらしい。「ここに埋めたんじゃ、ここに」、さっきまで一言も喋る気配が無かったその老人がいきなり口を開いた。「ここにカエデとかを植えていたんですか?」と友人が尋ねると「あいつや」と言った。「あいつって何のことですか?」と尋ねたがそこからその老人は黙ってしまったと言う。

 友人は1年その仕事を続け、大学卒業を機にその仕事を辞めたという。辞めた後にあの介護士に偶然会ったらしく気になっていたあの老人について尋ねると、どうやら3ヶ月前に亡くなったらしい。

 友人があの介護士に会ってから数週間後、**記念公園の再開発工事中に地中から男性の白骨化した遺体が見つかった。その遺体は死後数十年経過しており、遺体の発見された場所の上にはカエデが植えられていた。

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カエデ 吹田俄 @suitaniwaka

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