第2話

「君のためなら死ねる!」

「はいはい、死ねる死ねる…。」


今日も今日とてデイリークエストをこなした私は日課の薬草採集に出かける準備をしていた。ポーチに採集用のハサミ、水筒、お昼に食べるためのサンドイッチを詰め込んでいく。


「今から薬草採集に行くのかい?僕も手伝うよ!最近は剣の鍛錬を始めたから筋肉もついて…。」

「それはもう聞いた、あと薬草採集に筋肉はいらない。」


昨日の会話を覚えていないのか、全く同じ内容の話を話し始めたのでキャンセルする。コイツ、やっぱりバカだな…。と彼の記憶力について諦観し黙々と準備を進める。数分もしないうちに荷物を詰め込み終え、薬草採取の準備が終わった。コイツがいなければもっと早く終わったのに…。と不機嫌なオーラが私から醸し出される。


「ど、どうしたんだい?お腹が痛いのかい?それなら…。」

「なんでもない。それじゃあ私は行くから付いてくるなよ?絶対だぞ?」

「うん、分かった!」


なんていい返事なんだ!いい返事すぎて逆に疑わしい。だが素直な事は彼の数少ない、本当に数少ない美点だ。そこまで疑ってしまっては流石に可哀想だと思い彼の事を信じることにする。


「じゃあ行ってくる。」

「うん!またね!」


不安だ…。



ー数分後ー



「スタスタ…」

「ガサゴソ…。」

「スタスタスタ…」

「ガサゴソガサ…。」

「スタスタスタスタ…」

「ガサゴソガサゴソ…。」

「スタ…。」

「ガサ…。」


うん、居る。バチバチに居る。何だったんだよあの気持ちのいい返事は!こちとらお前のことを信じて出掛けたってのよぉ、私の信心を返せ!


「…。」

「…?。」


急に立ち止まった私が気になるのか、さっきから木の影からチラチラとこちらの様子を確認してくる。なんであれでバレないと思ったのか…、頭どころではなく上半身全てがあらわになっていた。


「あれ、なんだか人の気配がするなぁ?さっきからガサゴソ聞こえるし尾行されてるのかなぁ?」

「…っ!」

「怖いなぁ…、私が弱い女の子だから不安だなぁ…。」

「…っっ!」

「こんな時誰かが私のこと守ってくれたらなぁ…。」

「…っっっ!」


ガサッ!次の瞬間、木影から意気揚々と飛び出した彼はさながら王子のような爽やかな笑顔で私の手を取った。


「大丈夫!もう安心して、僕がついてるよ!」

「付いてきたらダメ言うたやんけ。」


私の演技にまんまと騙された彼が目の前にいた。


「私、ついてくるなって言ったよね?」

「うん、言った!」

「お前、分かったって言ったよね?」

「うん、言った!」

「じゃあなんでついてきたの?」

「ついてきたかったから!」


コイツ、無敵か!?コイツとの会話は理論武装だけじゃ成り立たない。何百回と繰り返して分かってたはずなのに何故今回だけは大丈夫だと信じてしまったのか…。出発前の自分を恨む。


「じゃあ今からついてこないで、分かった?」

「分かった!」

「本当の本当に?」

「本当の本当に!」

「ならヨシ。」


コレで私の平穏な薬草採取が戻ってくる。まだ採集できてないけど、道中だけど…。彼が村の方向に歩き始めたのを確認し私も薬草の群生地に向かって歩き始める。


「スタスタ…」

「ガサゴソ…。」

「スタスタ…」

「ガサゴソ…。」

「スタ…」

「ガサ…?。」

「分かってないじゃんっ!」

「ビクッ!」

「何一つ分かってないじゃん!」


突然大声を出した私に驚いたのか彼が隠れていた木陰から身じろぎする音が聞こえてくる。


「なんで、ついてきちゃうの!ダメって言ったよね!これ3回目だよ?」


私が怒っていることを察してか子犬のようにしょんぼりしながら彼が出てくる。


「ご、ごめんよ?でも、どうしても伝えたいことがあって、コレだけは言わないとって…。」

「何?」

「あ、あのね?」

「早くして、私お昼前には薬草採取終わらせたいの!」


イライラと早く仕事を終わらせたい焦燥感から語気が強くなってしまう。


「じゃあ、言うよ?」

「早くして!」


どうせ大したことじゃない、早く話を聞いて薬草採取に戻らない…。


「妖精さんに頼んで薬草の採集はもう済んでるんだ。君の後を追いながらお願いして回ってたからね!」


…と。


「は…?」

「だから、僕が薬草採取を妖精さんに頼んで済ましておいたのさ!仕事も終わったことだし、この後一緒にピクニックにでもどうかな?サンドイッチも君のポーチに入ってることだし!」


そうだった!コイツ、バカだけどハイスペックだった。ま、マズイ…。このままだといつもの流れで一日中コイツに付き纏わられる事になる…。それだけは避けないと!


「た、確か薬草だけじゃなくて果実も取ってきてって言われてたんだった。いっけなーい、私忘れちゃってたわ!ゴメンだけどやっぱりピクニックは無理そ…。」

「妖精さん、森の果物を少し分けて欲しいんだ?いいかな?」


ゴトゴトゴトゴト


「ありがとう!」

「…。」


つ、詰んだ。もう無理だ。挽回不可能、絶体絶命、万事休す。やっぱり私、この男と過ごすしかないのかな…はは…。


「じゃあ行こうか!グイグイ(腕を引き寄せられる)」

「…。ズルズル」


この後ピクニックに行き、夜まで彼と一緒に行動することになった。お昼に食べたサンドイッチは何故か塩辛かった。

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