勇者な君と私〜彼を遠ざけるたった一つの冴えた策略〜
@m4gokoro
第1話
「君のためなら死ねる!」
早朝、今日も息を吐くように放たれた台詞は耳にタコができるほど聴き慣れたものだった。
「いつも飽きないなお前は…。」
1ヶ月前から繰り返され半ば恒例行事とかしたこのやりとりは、ニワトリの鳴き声よろしく私に朝が来たことを知らせてくれた。鬱屈とした朝の始まりを…。
「飽きるわけないじゃないか!僕の本心からの言葉だ!想いは言葉にしないと伝わらないと爺ちゃんも言ってたし。」
「私は聞き飽きた…。」
ため息を吐きながら私は朝の水汲みを再開する。なぜこうも彼は私に執着しているのか、思い当たる節はある、が流石に毎朝となると面倒臭いと思ってしまうのも人の性。彼を無視し作業を続ける。
「何をしてるんだい?」
「…。」
「水汲みか、仕事熱心だね!」
「…。」
「手伝えることはあるかな、僕はこう見えても力持ちなんだ!」
「…。」
「最近は剣の鍛錬も初めて筋肉もつき始めたし、力になれると思うよ!」
「…。」
「ねぇ、聞こえてるかな?おーい、おー」
「しつこいッ!」
「い、聞こえてるじゃないか。僕にも手伝わせてくれ!」
コイツ、意図的に無視されてるのに気づいてないのか…?毎日無視されているのにも関わらず変わらず接してくる胆力に戦慄する。底抜けにポジティブなのか、ただのバカなのか、判断が難しいところだが私の見立てだと後者だ。
「いつも無視されてるのによく話しかける気になるな、バカなのか?」
「僕無視されてたの?」
見立て通りのバカだった。
「そうだぞ?あと見ての通り私は水汲みで忙しいんだ、話し相手なら他を当たってくれ。」
「なら終わったら話せるね!さっきも言ったけど僕も手伝うよ!」
この男、さながら回避不能のイベントである。いくら避けようとしても過程が結果に吸い込まれるかのごとくこの男を遠ざけることが出来ない。
(何か…何か遠ざける方法は…。そうだ!)
「なら水汲みを任せようかな、今日は村の家全部の水汲みを任せられてるんだ(大嘘)。私の家の分は大体終わったけど後の家の分がまだだから頼みたいな…。」
流石にこの嘘は苦しいか?普通だったら少女に村の水汲みを全部任せるなんてありえない。だが騙されてくれれば私は彼を遠ざけられる、村の住民は助かるので一石二鳥だ。彼のバカさ加減を信じた大博打!
「そうだったのか、分かった!僕に任せて!」
「(YES!)」
勝った!私は賭けに勝った!心の中でガッツポーズを決め優越感からくる清々しさに心を躍らせる。鬱屈とした朝が爽やかなものに変わっていく、涼やかな風、暖かな朝日、全てが心地いい。
「(こんにちは、世界…。)」
私が世界の中心にいるかのような全能感に浸っていたのも束の間、彼の一言で現実へと引き戻された。
「精霊魔法。水の精霊さん、僕を手伝ってくれないかな?」
「は…?」
次の瞬間、水がまるで意思を持ったかのように動きだし村の家々へと飛んで行った。
「(うそじゃん…。)」
私は高速で移動していく水をただ眺めることしかできなかった。ただ、私の爽やかな朝の終わりが着実に近づいていることを感じながら…。
「よし、終わりっと。コレでお話しできるね!」
白目を剥きながら絶望してる私に彼は死刑宣告をしてくる。
「(そうだった…そうだったッ!コイツは…。)」
彼が手を振りながら笑顔で近づいてくる。その手の甲に光り輝く痣を…勇者の証を携えながら。
「それじゃあ何から話そうかな?」
どうすることもできない現状に目眩を覚える私は、それでも一言絞り出した。
「筋肉、関係ないじゃん…。」
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