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 教室でちょっと緊張しながら、このあいだの国語のテストを受け取ると、七十一点。よしっ、これまでの最高点や。

 勉強の成果っていってええんかどうか。あれからいちおう、『ごんぎつね』を家で朗読してたんや。声が聞こえたんか、エル姉ちゃんが途中で部屋に乱入してきて、また最初から読み直しさせられたわ。このおはなし、お姉ちゃんも好きやってんて。終わったら、拍手もらっちゃった。

 まあ、そんなんはええねん。問題は、そのつぎにかえってきた作文や。

 なんやねん、四十二点って。ありえへんわ。だいたい、作文に点数つけるとか、地球にはなかった風習やぞ。

 自習の時間に書かされてん。テーマは「わたしの好きなもの」って、めっちゃよくあるやつ。

 ぼくはそれ聞いてすぐ、三つも思いついたね。

 一つ目は、SF小説。

 二つ目は、広島カープ。

 三つ目、トミ。

 いや、三はむりや。ただ思っただけのことで。そんなんで原稿用紙三枚も書いたら、青鬼先生、困惑しはるやろ。

 一もな、最初、タイトルだけ書きかけたんやけど、文芸批評みたいなんはおそれおおくて。ぼくみたいな初心者が、小松左京先生や、星新一先生や、筒井康隆先生や、テッド・チャン先生を論じるなんて、荷が重すぎるかと。

 消去法で、二に。ぼくとカープとの出会い、このあいだあったことをそのまま書いたった。まあ、その前ふりっていうか、ムジヒコにつれていかれた野球のはなしも書いてんけど、べつに、野球なんか好きやないねんで。いや、見るのはべつにええんや。

 なんか夏休みに、巨人族と広島の試合、見にいこうっておじさんがゆうたはった。ミルさんと、エル姉ちゃんと四人で。近所の河川敷でやってんのかな。ちょっと楽しみ。

 それはともかく。

けっこううまく書けたってうぬぼれてたのに、四十二点ってなんやろう。正直、むかついてる。ただ、原因ははっきりしてるみたい。余白に青鬼先生の講評が書いてあるから。

「よく書けていますが、つぎからはラガタ語で挑戦しましょう」やって。

 結局、それまでは大目に見られてたんやな。やっぱ、地球語はこっちやと通用せんのか。

 実際のところ、ラガタ星にも地球人の移住者ってけっこういるねん。テレビジョンでもお笑い番組でしょっちゅう出てくるし、それこそ地球出身の巨人族、なんて変り種もおることはおるみたい。そんな人らは、ふつうに地球語でしゃべってるやん。

 そら、学校みたいなところでは、一人だけ地球語では目立ってしゃあないし、下手したらいじめられるおそれもあるから、ぼくかて必死にラガタ語、おぼえようとしてるんよ。

 ただ、ぼくには語学の才能ってない気がするねん。ちっとも上達せえへんし。

 その上に作文でもラガタ語つかえって?

 ラガタ星人にとって、地球語はそんなむずかしいものでもないはずや。少なくとも聞いたら意味はわかるって、エル姉ちゃんもゆうてくれてたし、文字はいっしょなんやから、文章も通じるはずやん。

 ああ、もうわかってはいるねん。青鬼先生とか、うちのおじさんがいいたいのは、子どものうちなら矯正が可能で、今後こっちでくらすんやったら、ラガタ語をおぼえとけば絶対に有利やってことやろ。

 でも本音をいうと、地球語をわすれたくない……

 地球人の誇りとか、そんなおおげさなはなしやなくて、ぼくは生まれたときから地球語でものをかんがえてきたんやから、頭の中には地球語しかないんや。作文は、その心の中のことを書くもんとちゃうんか、っていいたいねん。

 ラガタ星にきてから、ずっと気になってた。どこいっても、みんながぼくの顔をじろじろ見てくる。このうすオレンジ色の肌がめずらしいからや。

 ぼくは人から注目されるのがきらい。だってなんにもできひん人間やから。

 地球に帰りたいとか、べつに今は思ってへん。おじさんもミルさんもエル姉ちゃんもやさしくしてくれるし、トミやっている。

 それでもぼくは地球人で、ラガタ星人にはなられへんやんか。

 だから、地球語で作文を書きたい。そんな思いがめばえてきたんや。

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