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それから三日くらいは、部屋でぼうっとしたり、エル姉ちゃんと近所をちょっと散歩したり、のんびりすごした。まあ、旅行でくるだけやったら、ラガタ星、ええとこなんとちゃうか。
でもそうはいかんからな。うーん、学校、やっぱいかんとあかんのか。
四日目の朝、ぼくはおじさんとおばさんに案内されて、通学路をあるいた。手続きとか、先生へのつけとどけとか、いろいろあんのかもしらん。
なんや、徒歩かいな。あのまんまるな車か、あるいは線路でちょっと見かけた超高速の電車みたいなんにのっていくんかと思ってたわ。道おぼえろとかゆわれて、二十分くらいあるかされた。
「じゃあ、ハマオくん、がんばるんだぞ」
「しっかりね」
学校の職員室の前で二人はさっていった。こないだまで知らん人らやったのに、いなくなられるとさびしいのは、なんでやろう。
教室までつれてってくれた担任の先生は、ほぼ青鬼みたいないかつい男やった。なんか知らんけど、おわったな、とゆう気がしたもんや。うう、転校生か、緊張するなあ。
「おーい、しずかに。あたらしい友だちを紹介するぞ。地球からきたハマオくんだ。さあ、きみ、あいさつ!」
「うー、あー、えー」
「はい、ありがとう。おまえら、顔がオレンジだからって、いじめたらしょうちせんぞ!」
ぼくはせめて、ぺこぺこおじぎするしかなかった。いや、ラガタ星って、おじぎの習慣はあんねやっけ?
「ハマオくんはご両親が離婚されて、親戚のおうちでくらすことになったそうだ。家がちかいものはとくに仲よくするように」
はあ?ぼくはよこに立ってる先生の顔をふりかえった。今、さらっと個人情報をもらさんかった?
先生はなにごともなかったような、しらじらしい感じではなしをすすめる。
「よし、じゃあ、とりあえずヌタのとなりの席にすわってもらおうか」
そんでぼくはヌタとかゆう、鼻たれ小僧のとなりにこしかけた。そんでふつうに授業はじまってんけど、最悪やん、いきなりラガタ語かいな。
ぼくは先生の顔と黒板とを高速で何度も見まわした。そんでヌタにおねがいするような目をむける。
「なんだい?あー、教科書か。それくらい用意しとけよな。ほら、見せてやるよ」
えらそうなやっちゃな。先生かて、仲ようせえ、ゆうとったやんけ。
でもぼくはその教科書を見て、ちょっとほっとした、ラガタ語って発音はさっぱりわからへんけど、字は地球語とおんなじなんや。漢字とひらがなとカタカナとその他。内容はふつうにさっぱりやけどな。めっちゃ勉強せなあかんやん。
「ではさっそく、ハマオくんに地球人の実力を見せてもらおうかな。四十二ページ、一行目から読んでくれたまえ」
はあ?やっぱこいつ、鬼やないけ。ぼくはあわあわしながらヌタの教科書を持ちあげ、ページをがさがさめくりまくった。えっと、えっと、四十二ページ、数字やったら読めるわい。うーん、うーん、『一つの花』ってどういう意味?花ってなんやっけ。
「ひっ、ひっ、ひー……」
きまづい沈黙が十秒、ぼくには何分にも感じられた。
「青鬼先生、地球人は字が読めないんだと思います!」むかつく男子がそういいはなった。
ちゃうわい、字は読めるけど、意味がわからんのじゃい。
「ああ、そうだったのか。だったらハマオくん、放課後、ちょっといのこってもらおうかな」
おわたった。ぼくの学校生活。いじめ確定やん。
国語の授業がおわってからの休み時間。女の子たちがぼくのまわりをわらわらとりかこんだ。それ見て男子たちがくすくすわらってる。ぼくはラガタ星人なみに青ざめた顔でふるえてた。
「ねえ、ハマオくーん、地球ってどんなとこなの」
「みんな顔がオレンジなのかしら」
「字が読めないって、ほんと?」
「親が離婚しちゃったの?」
どないしたらええねん、これ。だれかたすけてくれへんか。おい、ヌタ、なんかゆうたってくれ。ぼくはすがるような目でヌタを見た。と思ったら、おらんやんけ。ちっ、トイレか。
しゃあない、ぼくはノートのはしっこにペンをはしらせた。
『字は読めます。オレンジじゃなくて、うすいオレンジです。親のことはほっといてください。地球はよいところです』
きゃあー、と女の子たちがさわぎ出した。ペンで会話するやつって、そんなめずらしいんかいな。って、おいおい、にげんかてええやろ。
どうやらぼくは、自分一人だけでなく、地球人全体のはじをさらしてしまったらしい。
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