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それからずっとため息がとまらんかった。なにもかもが暗黒に見える。
おじさんらのうちの夕ごはんのテーブルでは、なんとかこらえようとしてんけど。
「あー、ハマオくん、学校どうだった?」
おじさん、それ一番聞かれたないねん。
ぼくはぶんぶん首をよこにふり、へらへら笑ってみせた。なんでもないねん、べつにつらくもくるしくもないで。と、よそおおうとした。ただもう、首をよこにふるジェスチャーはラガタ星でも否定を意味すんのかどうかさえ、自信がなくなってきた。あかん、ここで泣くのだけはこらえんと。この人らにきらわれたら、命にかかわる重大な危機をむかえてしまうやんか。
「ねえ、あれじゃないの、ハマオってさ、ラガタ語しゃべれないんでしょ」とエル姉ちゃんがいい出した。
「えっ、そうなのか」
「気づかなかったわねえ」とおじさんおばさん。
いや、あんたらはなんでわからへんかってん。
なんか急に、家族のはなしあいがおこなわれた。わるいなあ、ぼくなんかのために。あるいはぼくを追い出す相談やろか。
「よし、ハマオくん。われわれが今後、責任をもってきみにラガタ語をおしえようじゃないか」
「ハマオ、とにかくわたしたちと、いっぱいおしゃべりしてたらさ、すぐ上手になるわよ」
「心配しなくていいのよ、わたしたちはもう家族なんだから」
おばさんがのり出してぼくの手をむんずとつかんだ。おじさんもエル姉ちゃんも、はげますようなえがお。
ぼくはとうとう泣き出してしもた。「おおきに、みんな、おおきに」
「えっ、どういうこと、おおきにっていったかしら」
「きっとあれよ、うれしいです。よろしくおねがいします、って意味の地球語よ」
ちゃうわい、ふつうに、ありがとう、や。
その夜から、三人がかりでラガタ語の特訓がはじまった。おじさんが幼稚園児むきのドリルみたいなんを買うてきて、三方向からあれやこれやと口を出されながら、発音練習やら、作文、会話を徹底的にたたきこまれたんや。
正直、頭いたなるし、あんまり好きな種類の勉強とちゃうとゆうか、みんなが先生でぼくだけ生徒、みたいな状況がたいへんな感じもした。
とくにおじさんなんか、スパルタっちゅうか、お父さんの弟だけあって、ようにとるわ。失敗したらぎゃあぎゃあさわいで、さすがに手ぇは出さへんけど、目が血ばしっとるがな。
「パパ、もっとやさしくいってあげてよ。ハマオ、おびえてるじゃないの」
「そうよ、ひどいわ。わたしも離婚しようかしら」
そんなふうにエル姉ちゃんとおばさんがフォローしてくれるんはありがたかった。
ほんで上達したかってゆうと、まあ、あやしいもんや。ぼくって頭わるいんやろか。とくに発音がむずかしく、何回も何回もいいなおしさせられて。最後はエル姉ちゃんまでいらいらし出して「なんでわかんないの!こんなに必死におしえてあげてるのにぃ」と涙まじりにさけぶねん。
ごめん、ごめんて。ただぼく、ようかんがえたら、地球語もしゃべるのはあんまりしてこおへんかったかも。書くのと読むのは好きで、わりとようやってたけどな。小さいころはともかく、ここ数年は、お父さんともお母さんとも、あんまりはなすことなかってん。そんで友だちもおらんかったし。しゃべる必要がとくになかったっちゅうか。
そんでもさ、こんなに必死におしえこまれたら、アホでも多少の進歩はあるわいな。三人と会話できたら、この人らがどうゆう人間かもわかってきたりして。
勉強の中では、あとあれも好きやな。うすくてでっかい板みたいなんに画面がついてて、そこで人とか動物とかがうごくやつ。ネット動画みたいなもんか。地球にもにたようなんはあったけど、興味持ったことなかったわ。テレビジョン?ってゆうやつ。
わけわからん人形劇みたいなやつで、ゆうてることめちゃくちゃやったけど、なんとなくラガタ星の世界情勢みたいなもんもちょっとずつ理解できるようになってきて。今、ちかくの国で戦争とかゆう殺しあいをやってんねんて。国ってなんやっけ。聞いたことなかったな。
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