黒百合Ⅱ

 これは夢だ。

 擦り切れたフィルムのように何度も繰り返し見た夢だから、流石に理解してしまう。

 三年と少し前、私がまだ小学生だった頃の夢。

 私はそれを享受する。


 左を少し見上げると私と手を繋いで歩いている母が、目を合わせて微笑んでくる。

 右を向くとうんざりした雰囲気の父が、大量の買い物袋を持っていた。


 この日は中学校の入学に備えて、家族みんなでショッピングをしていた。


「ユリー!この服かわいいよ!ウチとお揃いにしようよー!」


 目の前にいる、私と同じくらいの女の子が、持っているワンピースをちらつかせながら声をかけてくる。

 腰まで伸びた赤いストレートのロングヘアー。

 目は血のように紅く、すこし吊り目で勝ち気な雰囲気の女の子。


 黒髪黒目の私をそのまま紅くしたような見た目のその女の子の名前は、ヒガン・ワタヌキ。

 家族ぐるみで仲が良かった腐れ縁のようなもの、だと思う。


「ヒガンちゃんは本当にユリちゃんが大好きなのね~」

「うん!ウチ、おっきくなったらユリと結婚するんだ!」

「ふふっ、その時はユリちゃんの所のみんなも一緒にパーティしないとねぇ~」


 母が適当なことを言ってくれる。

 ヒガンは、私たちが結婚する以前に、女の子同士だってことを理解してるのかな?

 とりあえず取り合わないようにしよう。


「ヒガンちゃんがお嫁さんに来てくれるなら、お父さんも安心だぞー!」

「ちょっと!私は結婚しても良いなんて言ってないよ!!」


 父まで変なことをいうので、つい話に反応してしまう。


「たしかに、結婚’’は’’まだはやいか…」


 ヒガンがぼそっと呟いたが、今度こそ無視しよう。


「ウチ、もっとユリと一緒にいたいのにな」

「ヒガンちゃんは、花園学園に行っちゃうんだものねぇ~。ユリってば、ヒガンちゃんが居なくて本当に大丈夫かしら?」

「……大丈夫だよ。同じ中学校に行く子、たくさん居るもん」


 確かに突然ヒガンと離れるとなると、少し寂しい気持ちもあるが仕方ないことだろう。


 魔力に目覚めた女の子、’’魔法少女’’になった女の子はニホンの義務で、花園学園に入ることになる。それは小学生の授業で習ったことだしみんなが知っている常識だ。


 常に外界からの脅威にさらされている人工島、ニホンを守るために魔法少女たちは、その力を成長させて国のために力を振るわなければならない。


「……ウチ、ユリのことも守れるようにたくさん強くなるからね!」

「うん、頑張ってね……」


 ユリが慈しみの表情で私に声をかけてくる。

 この時の私は、心からエールを送れただろうか。


 景色が赤く染まる。

 景色がゆがむ。




 ビーーーーーー、ビーーーーーー、ビーーーーーー


 突然鳴り響く警報の音。


 心臓を貫かれた母。


 上半身が無くなった父。


 原型がわからなくなったヒガン。


 そして、夢は終わる。





 ——————————————————————————————





「……」


 見慣れない天井だ。

 ……花園学園でのクラス振り分け試験が決まり、学園側の準備がいるようで、試験は次の日になった。


 私も引っ越しの荷物の整理などがあって、学園敷地内の仮の寮に泊まったんだった。


 ヒガンの協力もあって、早々に作業を終わらせた私は、柔らかくて大きいベッドで、気持ちよく横になったところまでは覚えている。


 はあ、汗でじっとりとした寝間着に嫌気が差す。


『おはよう!ユリー!』

「……おはよ」

『とりあえずお風呂入りたいよね!着替えはウチが用意しといたぞー!』

「……ありがと」


 ふとベッド脇に備え付けられたデジタルの置き時計を見ると、時刻は午前二時だった。

 とりあえず、シャワーを浴びることとする。


「……ヒガン」

『はいよ!』


 ひとこと、ヒガンに声をかけると魔法脱衣で私の服が一瞬で消える。

 いつもながら思うが、便利なことだ。


『はふぅ!いつ見てもユリの肌はきれいだねー!!めちゃくちゃにしたい!!』

「……うるさい」


 流石にこの時ばかりはヒガンの体がなくて良かったと思ってしまう。


『あ!今ひどい事考えたでしょー!でもそんなユリも素敵だよ!ウチはユリとならどっちでもいける!!リバーシブル?だよ!!』

「……うーるーさーいー!!」


 ヒガンにはもう少し心の声を聞かない努力をしてほしい。

 体を共有してるから耳に入れないのは多分無理だろうけど、聞かなかったことにはしてほしい。


 浴室に入りシャワーのノブを開く。

 備え付けの石鹸を泡立てて体を洗う。


 水で汚れを流すように、過去の出来事も忘れられればいいのに。

 気分が少し落ち込む。


「……ヒガンは、どうしたい」


 こんな単調な言葉でも、心を共有したヒガンになら伝わるだろう。


『ウチは、ユリが守れれば何だって良いよ。ユリが幸せになってくれるならそれでいい』

「……ありがと、ヒガン」

『うん!私も愛してる!!子どもは何人が良い!?野球超えてサッカー!?』


 うん。伝わってなかったかも。





 ——————————————————————————————





「……ふぅ」


 中等部の授業用プリントの問題を作り終わり、私はひと息ついた。


「お、お疲れ様です、ツバキ先生。新入生の件はこの後ですか?」


 いつの間にか横に居た図書委員会の委員長、クサナギさんが声をかけてくる。


「はい、そうですよ。クサナギさんも準備してくださいね」

「そ、その人ってどんな人なんですか?」

「名前はユリ・クロサキさん。クラスは少なくともA以上で、根源マギアは呪い。私の魔法鑑定で見たので間違いありません」

「え、Aクラス!?……すごいですね。なんで今まで活動してなかったんでしょうか?」

「……あなたはSクラスでしょ?教師なのにBクラスの私への当てつけですか?」

「そ、そんなつもりはまったく!……わ、わたしはSクラスだけど戦闘向きじゃないのでっ!」


 クサナギさんはわたわたとあせったように訂正する。


 普段は青く長い前髪で目が隠されていてよく顔が見えないが、慌てている時は髪が揺れてちらちらと顔が見えてかわいい生徒だ。

 猫背で内気な自信なさげな少女なのに秘めた魔力は全ての魔法少女の中でもトップクラスだろう。


 もっと前髪を短くすればいいのにと思う。


「もう、冗談ですよ。そんなに慌てないでください。クサナギさんの魔法でどれだけ多くの人が救われてるか、このニホンで知らない人は居ないんですから」

「……う、そ、そんなにもちあげないでくださいぃ……最近の教科書とかに自分の顔が載ってて結構恥ずかしいんですよぉ……」


 彼女の情けない声を聞きながら、私は彼女に魔法鑑定を使う。

 すると頭の中に彼女の情報が浮かんでくる。


 ツユ・クサナギ


 年齢:15

 根源:拒み

 魔力:S

 状態:図書委員長

 身長:152.2cm

 体重:52.2kg

 趣味:読書

 バスト……


「……ちょ、ちょっとツバキ先生ぇ!勝手に私の情報見ないでくださいぃ!」

「あ、バレちゃった。やっぱりクラスが高いと抵抗されちゃいますね。私も頑張ってAクラスにならないと!……クサナギさんって大きいんですね」

「な、なに見てるんですかー!!」


 そっか、クサナギさんって着痩せするタイプなんですね。

 私よりも胸が大きくて、いい年してちょっと悲しくなる。


「ごめんごめん!そろそろ時間だし行きましょうか!」

「……うぅ、お嫁にいけません……」


 うなだれるツユさんを横目に、クロサキさんに告げた試験会場へ向かう。


 突然現れた15歳のAクラス、ユリ・クロサキ。

 本来、魔法少女は10歳頃から覚醒を始め、根源マギアを手に入れる。

 12歳以降に覚醒する魔法少女は少ない。

 彼女も最近覚醒した魔法少女なのか、それとも……


「まあ、これから確かめればいい事ですけどね」

「……?」


 横に付き添ってくるクサナギさんが私の独り言に反応し、首を傾げる。


「クロサキさんとお友達になれるといいですね」

「そ、そうですね。Aクラス以上なら一緒に行動することもあると思うので、な、仲良くなりたいですね……」


 話もそこそこにして、足早に試験会場へ向かう。


 そこは広い屋外のグラウンド。

 まだ高い位置に太陽が覗き、つい眩しくて顔をしかめてしまう。


 その真ん中に彼女は立っていた。

 ユリ・クロサキ。彼女は無表情で私のことを見つめていた。

 身長は低く、可愛らしい見た目なのに圧を感じる不思議な少女。


 何か不機嫌になるようなことをしてしまっただろうか。


「クロサキさん。もしかして、待たせてしまいましたか?一応まだ十分前のはずですが」

「……べつに」

「そ、そうですか。それなら準備が終わり次第、試験を始めたいと思います」


 返事をしたクロサキさんは少し怒ったような表情をした。

 やはり気づかない所で、何かしてしまったんだろう。

 これ以上彼女に手間をかけさせないようにしなければ。


「クサナギさん、早速お願いできますか?」

「わ、わかりました!」


 ぼーっと様子を眺めていたクサナギさんは、慌てて返事をしながら魔法結界を構築する。


 拒みの魔法少女であるツユ・クサナギは、あらゆる攻撃を

 Sランクの彼女が全力で創った結界ならば、最近現れだした大型の魔物ディザスター級の攻撃ですら弾く。


 そのためツユ・クサナギはSランクでありながら、結界を維持するために学園に残り続けているのだ。


 ……最悪な事態になった時でも、その結界は無力な魔法少女を救う。

 それが出来るから彼女はSランクであったのだ。


「け、結界貼れました!」

「……はい。丁度いい強度だと思います。それでは、クロサキさん。あなたはどうやってこの結界を突破しますか?」


 私は魔法観察で結界の強度を確認する。

 Aランク上位ほどの強度に抑えて生成された半円球状の結界を見て、私は舌を巻いた。

 これをどうにか数十分以内にかろうじて破れれば、彼女は文句無しでAランクだろう。


「……」


 パリィィィン……


 クロサキさんが口を動かすのと同時に、結界が破れた音が響き渡った。

 結界が破られた時に出る魔力の破片が、陽光に照らされキラキラときらめいている。

 え、結界がもう破られた?


「……は?」

「え、え、どうして」


 結界の強度に問題はなかったはず。

 一体何が起こった?


 クサナギさんの方を見ると、彼女も呆然としていた。


 それもそのはずだ。

 手加減したとはいえ、Sランクの魔法結界を一瞬で破壊したのだ。

 信じられない出来事だろう。


「……これでいい?」

「ええっと、……ちょっと確認したい事があるので少し待ってもらっていいですか?」

「……わかった」


 私は慌ててクロサキさんに魔法鑑定を使う。


「……そ、そんな!?以前確認した時は、こんなステータスじゃなかったはずです!」


 そこにはとても信じられない結果があった。





 ユリ・クロサキ


 年齢:15

 根源:呪い

 魔力:SSS

 状態:騾√j縺ョ鬲疲ウ募ー大・ウ

   :蜆溘>縺ョ鬲疲ウ募ー大・ウ

 身長:142.1cm

 体重:37.9kg

 趣味:イマジナリーフレンドとの会話





 ……イマジナリーフレンドとの会話?





 ————————————————————

 初投稿なので拙い部分が沢山あると思いますがご了承ください。


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