第31話 安息が……

 ヘイド=ハンター達は思わず、目を開けたまま目をこすってしまう。

 だが……

「いたくなーい」

 そう、なぜかこの光の中では、怪我をしない。


 国へ入ってから、頻繁に襲ってくるゾンビたち、神野達は対応するため省エネモードで光を周囲に張り巡らせる。


 すると、ふらふらとやって来たゾンビたちは、光に触れると一瞬苦しみ、その後、笑顔になってもろもろと崩れていく。


 その光景は、調査隊の皆を驚かすには十分だった。


「光に触れた者達が、笑顔で消えていく」

「ああ、実に幸せそうな」

 そんな喜びとは裏腹に、田中達は悩んでいた。

 銃が撃てない、今出して撃てば、どう考えてもひんしゅくを買いそうな気がする。

 リアルシューティングゲームが……


 だが思っていたのと違い、実際に見ると人なのだ。


 ゾンビらしい怪我をした者達もいるが、なかなかそれに向かって攻撃をすることができない。まあ、普通のメンタルなら躊躇をする。

 だから、ゾンビによる被害が拡大をするのだが……


 周囲に張った光の膜。

 考えれば、これぞ最適解だと思ってしまう。


 途中、頼まれて村々の様子を確認をする。

 だがどこにも生者はおらず、死に果てた集落ばかり。


 途中の町でもそれは同じで、会いに行けば、もう町を捨てて別の町へと移ろうと代官達が考えていたようだ。

 暫定的なものだとは言っていたが、いつ収束をするのか判らない。

 国全体で、どのくらいの人が居なくなったのか、その時には誰も知らなかった。


 集団は大きくなり、村から村、町から町へと移動をする。


 夜間も明るいのは少し難があるが、ゾンビに襲われず寝られるのは喜ばれた。

 だが、神野達は少しずつ消耗をして行く。

 絶えず広範囲に、光の壁を張っておく必要がある。


 夜間は交代で数時間睡眠。

 昼は荷台で寝るが、移動は未舗装路、ガタガタと揺れて起こしてくれる。

 そんな中でもでてくるモンスター達と、盗賊達。


 王都へ到着をしたときにはへろへろだった。

 そのまま、王城へと向かい王と面会をする。


「ああ、よくぞ我が国のために参集をしてくれた、感謝をする」

 カイゼル髭を蓄えた、王様のような王様。

 ただ、ひどくやつれている。


 横の宰相は、元気そうなんだがな。

 この宰相が、この時俺達の纏う光を嫌がっていたことに、気がついていればあんな悲劇は起こらなかっただろう。

 


 そう、気がつけば神野 龍一じんの りゅういちは王となり、杉原 楓真すぎはら ふうまが宰相になっていた……


「なぜこんな事に……」

「まあ、なったものは仕方が無い。復興をしようぜ」

「そうだな」



 ―― そう、謁見したあの日。


「あやつら、何者だ。終始怪しげな光を纏いおって」

 宰相である宰相メフィスト=フェレットは、計画を進めるため、部下に通信コウモリを放つ。


 受け取った相手は、ガミジン=ホース侯爵。

 そうゾンビ騒動の起点であり、魔族。

 ネクロマンサーだ。


 この王国に入り込むと、手荒なことをせずに王国を乗っ取る予定だった。

 そうよくある定番、魔王様のために。


 この世界に、設定をされた闇の気配。

 それが増えたときに、精霊種たちは影響を受けて魔人となった。

 そう魔族である。


 世界樹の波動を嫌い、大陸を渡り、この地に拠点を造ろうとしていた。

 魔法で姿を変えて、王国へと潜り込んだ。


 そう貴族達は、いつの間にか魔族へと変わっていたのである。


 状態を知っていれば、きっと王は彼らに言っただろう。

『我が国を、魔王の手から救ってくだされ、勇者様方』と。


 だが状態は少し違い、もっと悪い。

 ゾンビとなった人間達は、ある日、王都に来襲、そして王国は滅ぶ予定だった。


 そこにやって来た変な集団。

 宰相の予定は狂い、計画を前倒しにする。

 まあ助っ人は、今なら十人程度。

 国へ帰れば、さらに居るため、お願いをすれば来てくれるだろうという報告。

 ニコニコ顔の調査隊、インセプトラ―王国方面第三班隊長ヘイド=ハンター準男爵からの報告である。


「ぐぬぬ。余計なことを」

 である。


 そしてゾンビを連れた集団が、王都に向かってやって来始める。

 彼らは、飲まず食わずでぞろぞろと。


 それに押される形で、他の町から逃げてきた人達が王都に向けてやって来る。

 そう、助けてくださいと願いながら。



 その時、宰相は時をあわせながら、王城の中で暗躍を始める。

 近衛兵達をゾンビ化させて、王達を捕らえに行く。


 そして、王都にいる貴族達は、人間側と魔族側で別れて戦闘が始まる。

 俺達がやって来て、ここまでで数時間の話し。

 物事は、急展開。


「助けてくれ」

 王達との窮屈で風変わりな食事の後、俺達はやっと休めると安心をしていた。

 そうしたら、王城内は騒がしくなり、剣戟けんげきの音が聞こえ始める。


 人間側は食堂に集まり、それを外からゾンビたちが襲ってくる。

「ああ、うぜえ」

 俺達は、廊下側へと戦いに行こうとする。


 だが、その後ろで声がする。

「ああ、御父様ぁ」

 第一王女デレシア様達が、腹に剣を生やした王様に駆け寄る。

「父上ぇ」

 王太子である、ヘルプゴッド君が剣を抜き賊と応戦。

 

 王様を刺したのは、近衛兵の一人だった。


「苦戦をしているから、助けに行く」

「おう頑張れ」

 近衛たちを、一気に倒す。

 意外と弱い。


 その時に聞こえた小さな声。

「ステキ……」

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