第30話 救いの光

「冒険者だ、討伐に来た」

 忙しいので適当。


「周りを囲む奴ら、じゃまだな」

 一匹のオークに対して、数人がたかってる。


「よし無視だ」

 そう言って、彼らは奥へと走っていく。


 奥は、モンスターの数も多く、修羅場状態。

 前に突っ込んだ、冒険者達の亡骸も転がりまくっている。


「うげっ、これはキツいな」

 ぼやく奴らに言い放つ。

「お前、自分が行きたいって言ったじゃないか、ゾンビだから、何だっけ? なんかゲームみたいだって」

 そう、行きたいと手を上げた田中や長谷川達。


「ああそうか、没入型の3Dだとこんな感じだよな、すっげー」

「切られたら死ぬし、臭いし最悪だけどな」

「それが良いんだよ。クソゲーだけど」


 そんな軽口がでるほど、ひどい現場。

 人間はそうやって心を安定させるようだ。


「気持ちだけだが、成仏をしてください」

 願いながら、皆が浄化を行う。


 いやほんと、匂いを消そうという試みだった。

 その光は、惨劇の元となったモンスター、つまりオークに当たると、そいつらを燃やした。


 そして、人々の怪我を治して、心を癒やした。

 らしい……

 これは後で聞いたことだから、その時には判らなかった。

 誰とも無しに、始めた浄化。

 それを見た皆が浄化を使い、連鎖的に広がった。


 まあ、血でドロドロの山の中、死体と匂い、皆が浄化を使ったのは理解できる。

 だがそれが、あそこまで強力な魔法になるとは思わなかった。


 ええそうです、神野が持っている『義』の玉、そいつが何かをした様だ。

 仲間の願いを力に変えて、敵を滅する。


 多分力を与えた先生は、ニヤニヤしてみているだろう。

「あらあら、かわいい生徒達、頑張りなさい」

 そう言って。


 その光景は奇蹟として、サンドウ皇国の兵の中で広がっていく。

 インセプトラ―王国からやって来た、奇妙な格好をした冒険者達、彼らは奇蹟を見せたと。


 無論、町で待機をしていたヘイド=ハンター準男爵達も、その噂を聞いたが、それが神野達のことだとは、思わなかった。


 救い出した人達に感謝をされながら、町への帰還。

 本当なら、もっとこう言うときにはお通夜のような雰囲気なのが普通。


 モンスターに飼われて、繁殖用の道具とされていた者達、食われる順番待ちをしていた者達、大抵、恐怖などで壊れているか、ひどいトラウマを背負って救出をされる。


 だが今回は、助かったと言う事に対して素直に喜びがでていた。


 救われたと……


 その反応は、町の人にも変化が現れる。

 今までなら、教会へ直行、そのまま隔離をされ、人知れず亡くなっていた。

 だが今回は、素直に家族が居るなら家族の元へ、独り者なら教会へ行き、他の町のものなら、支援金を受け取り、帰って行った。


 そう元の生活へ早く帰す。

 その事により、絶望へと沈ませない。


 以後、日々忙しく生活をする。

 教会に籠もり、絶望の生活をひたすら思い出し、沈んでいく生活とは違う。



 謎の冒険者達は、それにより感謝されながら送り出されていく。

 調査隊の面々は、自分たちが送り出されるようなイメージを受ける。

 そう調査にでるときも、静かに送り出された。


 普通、敵地へと向かうときなどは壮行会が行われる。


 だがそんな役目でもなく、騒げばゾンビを引き寄せてしまう。

 それはそれは、静かな送り出し……

 そして、サンドウ皇国へ入るときからずっと病原菌扱いの辛い日々。


 だが、彼らとの旅は全く違う。

 出立時には、町の人達が見送りに来て、声援が投げかけられる。

「道中に食え」

 そう言って手土産まで持たされる。

 無論対象は、彼らではないが、それで十分だった。


 彼らは、知らず知らずに曲がっていた背中が、ピンと伸びて歩き始める。

 

 その行列の近くで、お仲間が死にかかっていたのだが、残念ながら気がつかなかった。

 その両者、まるで光と影であり、差は悲しいほどだった。



 その途中でも、いくつかの問題を片付けながら、彼らは国境へとたどり着く。

「おおい、そこの者達どこへ行く、そちらはダイモーン王国。今は病気が蔓延して向こうに行くと戻ってこられなくなるぞ」

「あー」

 なんと答えようかと考え始めると、颯爽とヘイド=ハンター準男爵が割り込んでくる。


「彼らは、インセプトラ―王国の冒険者達。我らが依頼をしてご足労を願ったのだ。つまらないことを言って、止めないでいただきたい」


 そう言った瞬間、彼らの顔が曇った。

 かわいそうな奴らだ、どう頼まれたのか判らないが、もう帰ってくることはないだろう。若そうなのに、残念だ。

 そんな意識が、彼らの表情からダダ漏れ。


「そうか…… 気を付けていけ」

「達者でな」

 口々に、兵から言葉がかけられる。


 そして鉄板を張った、重そうな扉が開かれる。


 その時、ドアの影にいたのだろう、ゾンビが一匹飛びかかってきた。

 まだ若そうな男の子。

 俺たちの前に出てきて、つい反射的に張った浄化の光に触れる。


 一瞬だけ苦しみ、表情が和らぐ。

 その後笑顔に変わり、嬉しそうな顔のまま、まるで灰のようにもろもろと崩れて行った。


 骨すら残らないのはあれだが、エグい感じがなくって良かった。


 そう俺達は、そんな感想で済んだのだが、驚いたのは門番達。


「見たかあれ、奴らが、笑顔になって消えていった」

「教会の奴らでも無理だ」

「馬鹿野郎教会の奴らなど役に立つか、彼らはきっと神だよ、教会のようなまがい物じゃなく」

 教会の評価は、こうしてそっと落ちていく。

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