第二章 冒険者時代

第6話 春が来た。そして……

「おらぁー、木を切れ」

 なんとか造った斧を使い、木を切る。


 作業中にモンスターが来るため、斧の方が便利。

 切り込みを入れて、楔を打ち込む。


 皮をはいですぐに割り、板を作るが、乾いていないとなかなか割れない。

「乾燥をさせないと駄目だな」

「ああ、火で炙ってみるか?」


 そう思っていたら、水使いが現れた。

 切っ掛けは、髪の毛を乾かすのに便利だったらしいが、皆には言えずに、こそっと使っていたらしい。


 だがそれを切っ掛けに、火使いやら風使い、その他もろもろ皆が使えることが分かってきた。


 誰かの能力を見て、使えるかもと念ずると、以外だが使える人間が増えた。

 そうそんな事を真面目にするのは、大体皆、中学校二年生の時に終わってしまっていた。この年になると、本気で超能力とか魔法とかを普通は試さない。


「これが判っていれば、もっと楽だったのに……」

 皆がにわかに盛り上がる。

 試すと全員、力の強弱に差があるようだが、多少は使えることが判った。


 魔法が使えるなら、どんな事が出来るだろうかと、皆はさらに張り切り始める。

 そして魔法の基礎と応用を皆が考える。


「強力なのは、イメージの差か?」

「さあな?」

 言葉では軽く言いながら、心は燃えていた。


 数年前の、思い。

 かっけーである。


 奇妙なポーズを考えていたあの日。難しい漢字で技名……


 男子どもは、隠れて修行を始める。

 披露したときの、驚く顔と羨望の視線を得るために。


 そしてまあ、できれば女子からの……

 そんな淡い期待を抱き頑張る。

 そう人間、努力の源は欲望だ。

 それを、達成するために人は努力する。


 ある医者が言っていた、欲望がなくなると人間は終わるんだよ。若い頃みたいな元気はない。そう言って悲しい顔をしていた。


 実際、多少無謀なくらい事を、何でもやってみるのは若者の特権。その中で何かを掴み人は成長をする。


 そんなもの、やっても無駄さなどと言うのは、じじいになってからでかまわない。


 まあとにかく、彼らは頑張り、長さ八メートルほどの船を四つ造り、それを二つつなぎ、さらに両サイドに丸太をくっ付けて、安定性と浮力を得る。

 サイドフロートボートと呼ばれる形状。


 その後方に筏を作り、荷物を乗せて、一応トイレを作る。

 まあ囲いだけだが。


 オール付き。

 丁度夏前には出来上がった。


 そして、まだ夜も明けきらない時間だが、満ち潮から潮止まりの時間を選んで出発をした。


 この日、まず、島からの脱出は、二年一組が達成をした。


 少し沖までこいでいくと、引き潮が始まり随分流れたが、意外と早く昼過ぎには対岸までたどり着く。


 沖から見ても、人工の港らしきものは見えなかった。

 入り江状の砂浜を見つけて上陸し、やっと一息を付く。


 周りの岩場で、貝などを集めてバーベキューをして、今晩は此処でキャンプをすることにした。

 そう大半が、船に酔ったのだ……


 当然いつもの様に、三交代で見張りはする。


 周囲は崖だが足場はあり、登れそうだ。

 崖の上は、木々が茂り鳥の声などがする。


 翌朝。

「よし皆、命大事にだぞ」

 身軽な人間が先に上へと上がり、ロープを下ろす。

 幾人かが、上に上がるとさらにロープが投げられて、荷物を先に引き上げる。


 その後周囲警戒をしながら、全員が上がるのを待つ。


「どうする?」

「先ずは川を探して遡上だな。人が居るにしろ水は重要だ」

 来たときに、沖から見て川がなかった。

 だから、まだ見ていない西に向いて進むことにした。


 だが、川を見つける前に、人工物であるどう見ても畑にぶつかる。

 中には入らないように、外周をぐるっと北に向けて歩いて行く。


 するとだ、未舗装だが道に出た。


 その脇に隠れて、様子を見る。

 初めての所。

 未開な原住民で、いきなり襲われたら困る。

 だが、馬車が走っていった。


「文明あるし、人間も人間だったな」

「ああ、あの森の中に居た、あの変な奴らが文明人だったらと、少し怖かったんだよおれ」

 そう言ったら、俺以外も意外とみんなそう思っていたようだ。


 話し合った末、さっき馬車が行った方へと歩き始める。


 左に畑を見ながら丘を越えると、眼下に町が見える。

「あれって、城郭都市って言う奴か?」

「少し小規模だから、町かなぁ?」


 俺達が喋っていると、後ろから、濱田 結愛はまだ ゆあが聞いてくる。


「ねえねえ、言葉ってなんだろう? 私ぃ、英語不得意なんだけど」

「大丈夫。オレも駄目だ」

 周りも皆目をそらす。

 学校のレベルがレベルだし、無理だろう。


「まあ通じないなら通じないで、何とかなるだろ」

 だがその時、言葉よりも何よりも、自分たちの格好を気にしていなかった。

 迷彩でおそろいの服。

 大きなザックを背負い、弓や斧を装備。


 四〇人という人数。

 当然それに気がついた町は大騒ぎになる。


 インセプトラ―王国サンカウロスの町。

 衛兵詰め所に、物見から連絡が来る。

「町へ武装集団接近中です」

「なに? すぐ行く。規模は?」

「小隊レベル」

「判った。てめえら行くぞ」

「「「「おう」」」」

 皆が剣や槍を持ち、飛び出していく。



 その頃そんな事も知らず、のんびりと町へと向かっていた。

 少し気が抜けて、わいわいとお喋りがでている。


 だが、町の方がにわかに騒がしく……


「何か来たぞ」

「ああ、戦闘準備万全で来たな……」

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