第7話 何とかなる?

「なにい? さらわれて気がつけば島に?」


「ええ。そうなんです。私たちは学生で訓練中にそんな目に……」

「となれば、君達、貴族の子弟か?」

「いえ平民です」

「ぬう。 となれば他国か……」

 この国では、学校に通うのは貴族の子弟だけらしい。


「ねえ気がついた?」

「何がだ?」

「言葉が通じてる」

「あっホントだ」

 神野と杉原が口からでまかせを言っている間に、後ろでこそこそと小林 一颯こばやし いぶき廣田 紬葵ひろた つむぎが喋り始める。


 聞こえているし、最初の第一声で判っただろうが。



「お前達どこの兵だ」

 そう言って囲まれて、問答無用で槍を突きつけられた。

 実際は、それから問答をするのだけれど。


「お待ちください、お役人様。わしら怪しいものではありませぬ」

 多少、役作りが怪しいが、平身低頭で対応をする。


「格好が一緒なのは、学校の訓練服なのでございますです…… はい」

 ははぁーという感じで、説明を開始する。


 本当の事と嘘を取り混ぜる。

 杉原の得意技。

 此の話し方に、何回騙されたか判らない。



「おい、あそこ見ろよ」

「うん?」

 廊下の曲がり角。向こう側で廊下の壁にもたれ掛かり、こっちをチラチラ見ながら、赤くなり目をそらす女の子。


「赤くなって目をそらした。あれは、脈ありだ。お前に気があるんじゃないか?」

 その子は結構かわいく、お嬢さん系。

 確かに、こっちを見ては赤くなり目をそらす。


「ふむ……」

 そう言われれば、そんな気も……


「早く。いけよ。声をかけてこい。見ろよもじもじして、恥ずかしいんだぜ」

 仕方なく、オレは多少ニヤつきながらも声をかけに行った。


「なんかさっきから、目があうんだけど」

 決死の思いで声をかけた…… だが。

「えーと、あの…… トイレに並んでいて、恥ずかしいから見ないでください」

 振り返れば、トイレの前。

 そう廊下を曲がって、校舎の出っ張り部分にはトイレがある。


 女子側は混むのね。

 列の端っこだったらしい。


「そりゃ失礼」

 そう言って、足早に帰ったことがある。


 まあそんな類いは、一度や二度ではない。


「ですので非常に困っております。それに、一文無しでありますし。何とぞお力添えをお願いいたします」

 杉原はそう言いながら、背中側で手をぴらぴら。


 ああそうか。

「皆からも、お願いをしろ」

 そう言うと、皆が揃って頭を下げる。


「「「「「よろしくお願いしやす」」」」」


「皆もこう申しております」

 そう言って、笑顔で揉み手。


「ええい。判った、聞きたい話もあるし、今晩は宿舎に泊まれ」

「「「「「ありがとうございます」」」」」


 そう言う事で、入町税をパスできた。

 ラッキー。

 本当は、一人につき銅貨三枚必要だったらしい。

 イメージ的に、銅貨一枚千円くらいかな?


「さてこの後、身の振り方が問題だ……」

 杉原が悪巧みをしている頃……



「本当だよ、どこかのクラスが、固まって船で沖に出て行ったんだ」

「船か……」

「ヤッパリ何かクエストを終わらせないと、出られないんだよ」

 クラスのAランク女子、五宝 啓子ごほう けいこ中垣 槙なかがき まき枚田 里穂ひらた りほが、揃ってなんとかしてよと詰め寄る。


 当然だが、彼女達は志賀 雄介しが ゆうすけ吉田 昌広よしだ まさひろ菊地 陽介きくち ようすけの彼女でもある。


 最初は、奴隷どもが逃げてしまったが、キャンプ生活。

 教師もいない。

 ヒャッホー状態だったが、来る日も来る日も、貝では飽きた。

 魚や小動物を捕まえようとしたが上手く行かず、塩を作って、適当な奴を捕まえては、獣肉と交換をしてもらっていた。


 いやまあ最初は、後を付けて行き、力で従えようとしたが、逆にボコボコにされて、塩作りの当番にされてしまった。


 それどころか、煮詰める途中で、上澄みを捨て、苦汁を抜けと怒られる始末。

 個が強くとも、よほどでない限り、人数が多い方が勝つ。


 この後、二組の白川 悠月しらかわ ゆづきは、五宝をセフレにして雄介達の動向を拾い始める。当然、雄介達は知らない。彼らは干し肉に負けたようだ。

 


 だがそのおかげで、話しは二組に伝わる事になる。


「そうか、クエストなあ。ロールプレイング系のゲームをしないから気がつかなかったよ。ありがとうな。ご褒美だ。ゆっくり愛してあげよう。おいで」

「えっ本当?」

 自分で下着を脱ぎ、悠月に抱きつく。彼は、スポーツマンでさらに美形。

 ここへ来て、髪の毛が伸び放題だが、後ろで束ねる。

 それだけで、そう…… 彼は美人なのだ。


 存在は知っていた。だが、雄介がいるし、自分など相手をしてくれないと思っていた。だが、二組に絡んだとき、そっと声をかけられた。


「きみ、見たことあるなぁ。君みたいなかわいい子がどうしてあんな奴らと連んでいるの?」

 そう、本当なら怒るところ。彼氏と仲間が馬鹿にされたのだ。

 だが、相手が…… 


 そう、無理だと思っていた人。

 世の中では女子の半数、いやアンケートの種類によっては、八割が妥協して付き合っているという結果がある。


 そう、三組では、カーストがあり、雄介に逆らうと面倒だった。


 粗暴で配慮などない。

 だけど、悠月様は違う。

 美形なのに優しく、立ち居振る舞いまでが優雅……

 ああっ、贖えない。


「彼らの、動向を教えてくれるかな? どうしてかって? そりゃ君が不幸に見えたからさ、男ならかわいい女の子のために、なんとかしたいと思うじゃないか…… ふっ」


 そう言って、前髪をかき上げる。

 その時、彼の背景に美しい青色の薔薇の花びらが舞っていた。

 距離は、至近。唇が触れそうな近さ。


 君のために…… 君を助けたい……


 ああああぁぁ、もうだめ、死んでも良い……

 彼女は、思い切って距離をゼロにした。

 そうその時、五宝はコロッと落ちた。

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