第5話 冬は寒い
季節が進み、寒くなってきた。
その間は、結構雪が降り困った。
その前に、窯を造ったついでに、燻製干し肉、果物や山菜の塩漬けを大量に作った。
そのおかげで、備蓄はあり、食い物には困らない……
「なあ雪かきをせずに、固めてかまくらにしねえ?」
運ぶのが面倒なのと、遊びたいのが見え見えだが……
「かまくらか、良いかもな」
換気と、湿気を何とかすれば、寒さは多少ましになる。
一組は、総出で仕事…… なぜか、雪合戦が始める。
最初は危険なため、住居よりも高い山の上から雪を下ろして、谷側へと捨てていた。だが途中でそれを固めて、かまくらを作る事になった。確かそんな作業をしていたのだが、誰かが丸めて投げ始めた。
そうなると、日頃のストレス発散。
もう止まらない…… クラス全員での雪合戦が始まった。
だが、そんな事をして遊べる生徒達は少なく、多くの連中は苦境に陥っていた。
「やべえ、何か捕まえないと」
殺すのが嫌で、なんとか樹の実とかで暮らしていた者達。
もう蓄えはない。
樹の実は、気を付けていても腐る。
「魚なら、何とか出来そうな気がする」
そう言って、幾人かのペアに分かれて、ラッセルをして、道を作っていく。
ラッセルとは、雪の中を掻き分け、踏み分けて道を開きながら進むことだ。
だけど冬の川の中は、活性が低く、岩の下から魚はでてこない。
寒い中、こんな所までやって来たのに、川を覗き込んでも魚が見えない。
知恵があれば、大きな石を魚が隠れていそうな石にぶつければ、衝撃で魚が気を失い浮いてくる、ガチンコ漁が使えるが、元々生き物を殺せない生徒達。釣りすらまともにしたことがない様だ。知らない物は使えない。
奴隷時代のサバイバル訓練を、試練と思って励んだなら良かっただろうが、此の手の奴らは、辛いことから逃げる傾向がある。
そして山に果物がなくなると、探し始める者達は多い。
それは人だったり、動物だったり、モンスターだったり。
―― その獣は飢えていた。
いつもの餌場を荒らされ、冬眠前の餌が思うように食えなかった。
そう大好物だった、栗や椎の実。
そのクマは、巨大で三メートル近くの体躯。
丁度、灰色熊とかグリズリーと呼ばれる種類と同じ感じ。
立ち上がり、そいつは匂いを嗅ぐ。
五十センチも積もる雪の中を、埋もれるように疾走する。
当然獲物が居る、風下からだ。
獲物は、三匹。
川沿いで何かを探して、こちらに注意が向いていない。
「ふっ素人め……」
実際は、ぐるるとか低くそう唸った次の瞬間、彼の右手は一匹の顔面を捉える。
そいつは吹っ飛び、痙攣をしながら川の中に浸かる。
よし、後二匹。
「うわあぁ、クマだぁ」
そいつらは、何か叫びながら逃げ始める。
ひ弱な奴め、我に背を向けるとは……
背中に一撃。
背中を押さえるようにしながら、もう一匹を目で追う。
だが、その時だ……
手が、ストンと地面を付いてしまう。
「がっ?」
いなくなった。
まさか?
川に落ちた、もう一匹も消えていた……
なんじゃこりゃ。
逃げたもう一匹を追う。
必死で追い、一撃を食らわせ、消える前に囓る。
だが、彼の顎は空を切る。
目の前で消えていく獲物……
なんだよ一体……
彼は、腹を減らしながら、次の獲物を探す事になる。
「くまぁ、くまがぁぁ」
「ああ、くまあぁ」
グランドに戻ってきた、
そこに遅れて、
周りを見回し、安堵する……
「ほら反省文」
いつもの、先生の言葉。
「先生クマが」
「クマに……」
だが先生は焦らない。
前川はよほど恐ろしかったのか、言葉すら出ない。
「ああ居るぞ。まだ他にも色々とな。気を付けろ。周囲の確認は必須だ。ほい、反省」
容赦ない紙束。
だが日常の光景に、なんとなく心が落ち着く。
震える手を、落ち着かせながらかき始める。
だが、誰かが戻ってくるたび、そちらを振り向く。
そして、緊張感を持ったまま、スタート地点へと帰っていく。
今度は、全方位を三人でカバーをしながら、居た場所に向かう。
途中で、海の方が雪が少ないことに気がつく。
「戻ったら、皆に言って見よう」
「ああそうだな」
もと三組の奴隷達、自由にはなったが、なかなか生活は厳しいようだ。
そして熊さん。
落ちていた獲物。
寒さで死んだのではなく、狩られたようだが、このうまいものを放置していったようだ。
落ちていたのは、新鮮な成人のオーク。
こいつは手強いが、実に上手いんだよ。
そう思い、巣の近くに引っ張っていくと、穴を掘り埋める。
こうしておけば、長持ちをする。
奇妙な獲物は逃がしたが、良いものが手に入った。
まあ差し引き、勝ちだな。
そう言って、満腹で彼は巣穴に戻る。
「やべえあのモンスター。他にはいないか?」
獲物を探して、森の中を徘徊していた、五組のメンツ。
一単位五人でチームを組んだらしい。
丁度出くわした、野良のオーク。
一匹だから、なんとかナイフと竹槍で倒せた。
だが彼らは、二足歩行のオークが食えるとは知らなかった。
だが知らなくて放置をしたがため、熊に襲われなかったのは、幸せかもしれない。
此の熊は、この辺りを縄張りにして、ブイブイ言わせている個体だった。
運不運は、自然の中で生きるためには重要な
その頃、神野と杉原は顔を突き合わせて、山の斜面に造った炉を眺めていた。
炭を燃やし、勾配を利用をして煙突を造る。
すると自然の対流によって、空気は吸い込まれて煙突を上がっていく。
中には、木炭と共に拾ってきた岩石がぶち込まれ、たまに赤化した液体が流れてくる。
「どう思う?」
「放っておいて、錆びりゃ鉄じゃね」
「まあ、そうだろうなあ」
彼らが造ったのは、こしき炉と言われるもの。
煙突状の簡単な炉であり、西洋では、キューポラと呼ばれていた。
炭焼き窯や、炉のおかげで、かまくらの中は暖かく快適だった。
そんな中で、図面が書かれ船が設計される。
雪に閉ざされた間に、彼らは計画を練っていた。
「おそらく、先生達の目的は向こう側だろう」
「そうじゃなくとも、この島でずっと暮らすのはいやだぜ。なあ?」
周りに集まった居たクラスの生徒達も、こっくりと頷く。
「どうやったら、この修学旅行が終わるのか判らないし、行ってみるしかないと思う」
「そうだな」
そう皆は修学旅行だし、しばらくサバイバルをすれば、終わり。帰れるものだと思っていた。
だが…… 夏が来て、秋。
そして冬。
一年経てばとも思うが、保証はない。
そう、壮大なクエスト。
何かを達成をしないと帰れない、そう考えるのは自然だろう。
このクラス。
まだ誰も死んでいなかったので、余計にシステムが判っていなかった。
「春になれば、いくぞ……」
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