明日は明日の風が吹く。

猫野 尻尾

1話完結:不倫。

一話完結です・・・もしかしたら、この先あるかも。


明日のことは明日考えればいい、今日くよくよしてみても始まらない。

たとえ今が苦しかろうと近々に運が向いてくるかもしれないのだから・・・。

だけど今が楽しければ将来はどうなってもかまわないって言う訳じゃない。



私と夫は同じ職場で知り合った。

私も適齢期に差し掛かっていたこともあって、そろそろいい人がいればって

思ってた・・・その矢先、彼からの告白・・・。


彼の性格は穏やかで誰にでも親切で優しい、裏の顔は見当たらない。

この人なら自分の人生を預けてもいいってその時は思った。

最初は誰でも猫を被ってるって言うけど、それからも彼は変わらなかった。

ダメなところは見当らないまま1年ほど付き合って家族や友人から祝福されて

私たちはめでたく結婚した。


結婚するまでに私は彼に愛されてエクスタシーを感じる体になっていた。

だから心も体も充実していた


楽しくて順風満帆な新婚生活・・・二年後には男の子も産まれて幸せな家庭。

子供が小学生に上がるころ、その頃になると夫は私を求めなくなった。

疲れたとか、今はそう言う気にならないとか口実をつけられて夫婦間の

営みなくなっていった。

セックスに飽きちゃったのか・・・私に女としても魅力を感じなくなったのか?

もしかして倦怠期?・・・どこの夫婦もそんなものなのかなって思ってた。


夫と付き合ってる時はデートのたびに求められたのに・・・。


だけどご近所の奥さんにそれとなく聞くと、まだちゃんと夫との営みはあるって

言うし・・・そればかりか年齢とともにますます激しくなって行くって・・・。


うちはすでにレス状態。

私の体がなにも感じない体だったら、それほど深刻には考えないんだけど

私も年齢が上がるとともに性欲がどんどん増して行く。

テレビドラマで恋人同士がキスするのを見るだけで濡れてたりする。


家庭として不満があるわけじゃない、夫は相変わらず優しいしよく働いてくれる。

子供も登校拒否とかなく元気で学校に通っている。


だけど何かが物足りない・・・。

ベランダで洗濯物を干しながら、ぼ〜っと工場の煙突を眺めてため息をつく。

幸せなのに・・・やっぱり足りない、世の中もっと不幸せな家庭もいるって

言うのに・・・そんな悩み、私は贅沢なのかな?


心は満たされても体は満たされない日々。

日増しに欲求が溜まっていく。

自慰にふけってもその時はいいけど・・・相手がいないとやっぱり虚しい。


そんな日々の中、私はマッチングアプリに手を出した。


最初はただの興味本位だった。

誰かとの素敵な出会いを求めても、やはりそこに愛はない。

ただ肉体だけの関係・・・いわゆるセックスフレンド。


それでもいいと思った・・・でもそれって浮気になっちゃう・・・不倫だよね。

妻として夫を裏切っちゃいけないことしてるって思いより干上がった自分の

欲求を潤したかった・・・ただその思いだけ。


知り合った人は40過ぎの自営業を営んでる男性、独身。

中年小太りかと思ったら、筋肉質のイケメンさん・・・合格。

私は35歳の人妻・・・だけど彼は人妻大歓迎ってことだった。


私の苗字が「田村」だからか彼からは「ラムちゃん」って呼ばれるようになった。

私は彼の名前は知らない・・・だから彼のことを「ダーリン」って呼んでる。

ダーリンの女性に対する奉仕の精神は夫とは比べるべくもない。

女性を喜ばせるテクニックを熟知している。

女性経験が豊富なのかも・・・だから私以外にも付き合ってる女性が何人か

いるのかもね。


夫の行動パターンは分かりすぎるくらい平凡、仕事が引けたら伝書鳩みたいに

どこにも寄らずに我が家に帰って来る。

趣味もとくないから休日は家にいることが多い。


たばこもお酒もギャンブルにも手を出さない。

釣りやキャンプなどのアウトドアも興味なし、だからほぼ家にいて配信サービスの

映画を見たり、読書したり・・・夫の行動は手に取るように分かる。

だから浮気なんかしたらすぐに分かる。


その点、私は夫を送り出し、子供を学校へ送り出し、洗濯と掃除をして午後から

夕食の買い物にでかける・・・その間はフリーな時間。

夫はバイクで会社に出勤するから、私は車で買い物に行く。


買い物に行く前に最寄りの駅に寄ってアプリで知り合った彼を拾ってホテルへ

直行。


そこで繰り広げられる、めくるめく隠微な時間・・・私は主婦を忘れる。

最中、時々夫や子供の顔が脳裏に浮かぶけど、それは一瞬、彼のこの上ない

たくみな前戯に我を忘れてしまう。


私はただの女・・・性欲に依存した女・・・そこに愛なんかなくてもセックスは

成立する・・・いや私は私の体をもてあそんでいじめるダーリンを好きに

なってるのかもしれない、そうじゃないとやはり体を彼に委ねることを躊躇ためらってしまう。


ダーリンは独身なのにセックスのテクニックには目から鱗。

時には普通のセックスでは飽き足らない行為を要求されることもある。


それはアブノーマルで特異な世界・・・でも私はそこからも逃れられない・・・。

ダーリンがエスカレートして行くごとに私も性欲の虜になって行く。


心のどこかで夫に謝りながら・・・私は深い混沌へと落ちていく。

私の中で現実と虚構が錯綜してる・・・私はダーリンと夢のような時間が

過ごせさえすればそれでよかった。

明日のことなんか考えもしなかった。


彼と人には言えないような行為をしていながら、家に帰ると一方で夫に従順な

妻を演じる、まるで女優のように。


なにがよくて、なにがいけないのかさえもう分からない。

ただダーリンが帰った後ひとり残された部屋で、なんとなく虚しい気分で窓の

外を・・・夜の街の明かりを見て、ため息をつく自分がいる。

それが私の唯一残ってる正常な部分なんだろうか?


私の帰りが遅いから夫から私のスマホに連絡が入る・・・帰りが遅いから心配

してるって・・・。

相変わらず私を気遣う優しい夫。


「ごめんね、お買い物してたら大学の同級生とばったり会っちゃって、久しぶり

だったからカフェで話し込んじゃった・・・今から帰るからね、ごめんね」


そんなウソを平気でついて私は車のエンジンをかけた。


おしまい。



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明日は明日の風が吹く。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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