第17話 束の間の休息と再会

補給部隊への奇襲作戦を終え、虎之助と精鋭たちは清洲城に戻った。

戦いの緊張から解放され、久しぶりに平穏な日常が彼らを包み込んだ。

城内では、束の間の休息が許され、兵たちは酒や食事を楽しんでいた。

虎之助も、仲間たちと共に宴席に顔を出し、穏やかなひとときを過ごしていた。

武田軍を退け、戦局は織田軍にとって有利に進んでいるが、虎之助はまだ次の戦いに備えて心を落ち着かせることができなかった。


「虎之助、今日はお前も少しは気を抜けよ。ここまでよくやったんだからな。」


近藤が笑いながら言った。彼は既に杯を何度も交わし、上機嫌だ。


「そうだな、少し休まないと次に響くかもしれない。」


虎之助は少しだけ肩の力を抜き、杯を手に取った。


宴の熱気が漂う中、ふと虎之助は一人、外の静かな中庭へと足を運んだ。

夜空には星が瞬き、戦場の喧騒とは異なる静寂が心地よかった。

ここで少しの間、一人になって考えたかった。


「虎之助様」


その静寂を破ったのは、懐かしい声だった。

振り返ると、そこには千鶴が立っていた。

戦の合間で再会する機会がなかなかなかったが、この束の間の休息の時、彼女が虎之助を訪ねてきたのだ。


「千鶴…お前も無事だったんだな。」


虎之助は驚きつつも、その姿を見て心が少し軽くなった。


「はい、虎之助様が無事に戻られて本当に安心しました。皆、あなたのことを心配しておりました。」


千鶴は微笑みながら言い、虎之助の無事を確認して心から安堵している様子だった。


「お前もよく無事でいてくれた。俺はお前のことがずっと気がかりだったんだ。」


虎之助は彼女の顔をじっと見つめ、その言葉に誠意を込めた。

戦場では多くの者が命を落とし、そのたびに自分の周りにいる者たちの存在がいかに大切かを感じていた。


「ありがとうございます、虎之助様。でも、こうしてお戻りになったあなたが、皆にとっての希望です。どうか、これからも無事でいてください。」


千鶴の優しい言葉に、虎之助は思わず微笑んだ。


「そうだな。俺はまだ生き延びるさ。お前や皆のためにもな。」


二人はしばらく、静かな庭の中で穏やかな会話を交わしていた。

千鶴との再会は、虎之助にとって心の拠り所となり、これまでの戦いで蓄積された疲れを癒してくれるものだった。


やがて、遠くから宴の賑わいが再び耳に届き始めた。仲間たちの笑い声や歌声が聞こえる中、虎之助は千鶴に優しく言った。


「俺はもう少しここで休むつもりだ。お前もゆっくり休んでくれ。」


「はい、虎之助様もどうかご自愛ください。」


千鶴は静かに礼をし、その場を後にした。

彼女の背中が見えなくなると、虎之助は再び夜空を見上げた。

戦いは続くが、この束の間の休息と再会が、彼の心を支えてくれる。

戦場で何度も命を賭けて戦ってきたが、こうした平穏なひとときがあるからこそ、また次の戦いに向かう力が湧いてくるのだ。


「もう少しだけ、ここでのんびりさせてもらうか…」


そう呟きながら、虎之助はしばしの安息を噛み締めた。


続く


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