第16話 影の功労者
補給部隊への奇襲が成功した後、虎之助と少数精鋭部隊は無事に拠点へと戻ってきた。奪った物資は織田軍全体にとって大きな勝利であり、士気を高める要因となった。
しかし、戦場での名声はいつも表に立つ指揮官だけに注がれるものだ。
清洲城に戻ると、信長がすぐに虎之助たちの活躍を耳にし、彼らを褒め称えた。
「よくやった、虎之助。お前たちの働きで、武田軍の進軍は大きく遅れただろう。これで我々に時間ができる。」
信長の言葉に、虎之助は少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「ありがとうございます、信長様。しかし、これは私一人の功績ではなく、皆が協力してくれたおかげです。」
信長はその言葉に満足げに頷いたが、虎之助の心には、今一つ気になる存在があった。
今回の作戦が成功したのは、影で支えてくれた仲間たち、特に情報を提供してくれた者たちの功績が大きかったからだ。
奇襲作戦の前、虎之助は密かに城内で働く一人の密偵、名を源次郎と呼ばれる男から重要な情報を得ていた。
彼は裏で織田軍を支える「影の功労者」であり、その存在はほとんど知られていなかった。
彼の正確な情報提供がなければ、補給部隊がどのルートを通るかを把握することもできなかっただろう。
その晩、虎之助は源次郎に会うため、城の奥深くにある小さな部屋を訪れた。
源次郎は決して表舞台に立たないが、その冷静な目と知略に溢れた頭脳は織田軍にとって欠かせない存在だった。
彼は、常に影の中から織田軍の動きを助けていた。
「源次郎、今回もお前の情報がなければ成功はあり得なかった。本当に感謝している。」
虎之助が感謝の言葉を述べると、源次郎は少し微笑みながら頭を下げた。
「私の仕事は表に出るものではありません。虎之助様のように、実際に戦場で指揮を執る方がいてこそ、私の情報が役に立つのです。」
源次郎のその言葉には、謙虚さと共に確固たる信念が感じられた。彼は決して名誉を求めず、ただ戦の勝利のために自分の役割を果たしていた。
「だが、表には出なくとも、こうして裏で支えてくれるお前のような者がいなければ、我々は何もできない。それを忘れてはならない。」
虎之助は改めて源次郎の存在の重要さを心に刻んだ。
源次郎は静かに頷き、ふと窓の外を見つめた。
「次の戦も近いでしょう。我々ができることは限られていますが、全力を尽くしましょう。」
「そうだな。」
虎之助は源次郎の言葉に力強く同意し、再び戦いに向けて気持ちを引き締めた。
その後、城内では虎之助の部隊と織田軍別動隊の成功を称える宴が開かれた。
しかし、その陰で源次郎や他の影の功労者たちが、次なる戦に備えて静かに動き始めていた。
影の功労者たちがいるからこそ、戦場での華々しい勝利がある。
それを知る者は少ないが、彼らの存在こそが織田軍の強さの源であると、虎之助は強く感じたのだった。
続く
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