第6話 忍び寄る影

虎之助が初陣での勝利を収めてから数日が経過した。

戦場での経験は彼に多くのことを教えた。

戦場の厳しさ、生死をかけた戦い、仲間の存在。

彼はそれらすべてを胸に刻み、さらに厳しい鍛錬に励んでいた。

だが、織田軍が今川軍に勝利したという報せは、周囲の敵勢力にとって脅威となり、特に松平氏や北条氏が織田軍の動向に注意を払うようになっていた。

次の戦いに向け、信長のもとには多くの情報が集まっていたが、その中でも特に目を引いたのは「忍び」の存在だった。


「虎之助、少し話がある。」


ある夜、清洲城の一角に呼び出された虎之助は、信長の信頼厚い家臣の一人、羽柴秀吉から声をかけられた。

秀吉は、信長の軍で急速に頭角を現している若き武将であり、戦略家としても名高い人物だった。


「何の話ですか、羽柴様。」


「実はな、最近敵勢力がこちらに対して奇妙な動きをしている。城内に何かしらの影が潜んでいるらしい。」


「影……?」


「そうだ。忍びの者だ。敵が我らを探ろうとしている。信長様はこの影の動きを静かに取り除くよう命じている。お前にも協力を頼みたい。」


虎之助は、その言葉に一瞬緊張を覚えた。

忍びの者とは、戦場での戦いとは異なる脅威だった。

暗殺や諜報活動を得意とする彼らの存在は、時に軍勢全体を揺るがすほどの力を持つことがある。


「信長様のためなら、俺は何でもお手伝いします。」


虎之助はそう答え、すぐに任務を受け入れた。彼に課された任務は、城内に潜む忍びを探り出し、その動向を突き止めることだった。

羽柴秀吉からの指示に従い、虎之助は仲間たちと共に夜の清洲城を静かに見回り始めた。

月明かりが差し込む城内は、昼間とは打って変わって静寂に包まれていた。

虎之助は一つ一つの足音を殺し、物陰を慎重に見渡しながら進んでいく。

忍びはどこに隠れているのか、目を凝らして注意深く周囲を確認した。


「……あれは。」


城の一角、人気のない回廊で、何かが一瞬動いた気配を感じた。

虎之助はすぐにその方向に目を向け、静かに近づいていく。

暗がりの中、まるで影のように現れたのは、一人の忍びだった。

黒装束に身を包んだその姿は、まさに影そのものだった。


「見つけたぞ……!」


虎之助は手にした槍を構え、忍びの者に向けて駆け出した。

忍びもまた、虎之助の存在に気づき、すぐに身を翻して逃げ出した。

だが、虎之助は素早く追いかけ、その背後を突いた。


「逃がすわけにはいかない!」


虎之助の槍が忍びに届く寸前、忍びは手裏剣を投げつけ、反撃に出た。虎之助はその攻撃をかわしながらも、決して忍びを見失わなかった。

追跡が続く中で、虎之助は自分の戦闘技術だけでなく、忍びの者との頭脳戦を余儀なくされた。

回廊の曲がり角で、ついに虎之助は忍びを追い詰めた。

逃げ場を失った忍びは、鋭い目つきで虎之助を見据えたが、その瞬間、虎之助は冷静に攻撃を繰り出した。


槍の一撃で忍びを仕留め、その場に倒れ込むのを確認した。


「これで終わりか……?」


虎之助は少しの安堵を感じたが、油断はしなかった。

すぐにその忍びを捕らえ、羽柴秀吉の元へ連れて行くことにした。

信長の軍に対する脅威はこれでひとまず取り除かれたが、敵勢力がこれほど早く動き出していることに、虎之助は不安を覚えた。


「信長様に報告しなければ……。」


夜が明ける前に、虎之助は羽柴秀吉のもとへ戻り、忍びの存在とその動向についての報告を行った。

秀吉は彼の活躍を高く評価し、信長にもその報告が届けられた。


「よくやった、虎之助。だが、敵は一人ではない。これからもお前には重要な役割があるだろう。気を抜かずに備えよ。」


信長の言葉に、虎之助はさらに身を引き締めた。忍びとの戦いは終わったが、これからも多くの試練が彼を待ち受けていることを確信したのだった。

彼の心には再び、父の仇を討つための決意が強く燃え上がった。


続く


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