第7話 運命の出会い
虎之助が忍びの存在を排除してから数週間が経過した。
清洲城では、今川軍との戦の準備が進められ、織田軍はますます強化されていた。
虎之助もまた、信長の期待に応えるべく、日々の鍛錬に励んでいた。
そんなある日、城内で珍しい光景を目にすることになる。
市場での出来事だった。
普段は戦に明け暮れている虎之助だが、今日は鍛錬の合間に、少しだけ城を離れ、周辺の市場を訪れていた。
新鮮な野菜や魚、手作りの品々が並ぶ賑やかな光景に、彼は心を躍らせていた。
「やっぱり市場はいいな……。」
虎之助は、活気に満ちた市場を眺めていた。そこに、目を引く一人の女性がいた。
彼女は美しい青い着物を着ており、流れるような黒髪が背中まで伸びている。
彼女は店先で果物を選んでいるようだった。
虎之助は、その女性の姿に惹かれ、思わず足を止めた。
「何をしているのですか?」
虎之助が思わず声をかけると、女性は驚いたように顔を上げた。
彼女の名前は千鶴。
彼女は、旅商人の娘で、城下町に品物を届けるためにやってきていた。話していくうちに、彼女は虎之助の真剣さに気づき、互いに興味を持つようになった。
「あなたは戦士ですね。お顔を見ただけで、何か大きなことに挑んでいるのがわかります。」
「そうだ。俺は信長公の家臣として、戦に挑む日々を送っている。」
千鶴の目は、虎之助の言葉に真剣さを持って反応した。
彼女は自分が戦士に会うことができたことに嬉しさを隠しきれなかった。
「信長公の軍勢、すごいですね。私も、その話を聞いて胸が躍ります。きっと、あなたも素晴らしい戦士なのでしょう。」
虎之助は、その言葉に少し照れくささを感じたが、心の中で嬉しさが湧き上がった。
彼にとって、戦士としての使命感を持ちながらも、こうして誰かに自分のことを理解されることは特別な感情だった。
「俺はまだまだ未熟だが、父の仇を討つために頑張っているんだ。」
「仇……?」
千鶴は少し驚いたように言葉を続けた。彼女の表情には、虎之助の決意が深く伝わってきた。
「俺の父は、戦で命を落とした。だから、俺はその無念を晴らすために、信長公のもとで戦い続けるつもりだ。」
千鶴は真剣な眼差しで虎之助を見つめ、その話に耳を傾けた。
彼女は、ただの商人の娘でありながら、戦士の志を持つ虎之助の言葉に共鳴を覚えた。
「あなたの覚悟、素晴らしいです。私も、旅の中で少しでも人々の役に立てるよう頑張っています。」
二人はその後も、様々な話を交わしながら時間を過ごした。
市場の活気の中で、彼らの心の中には少しずつ絆が生まれていくのを感じた。千鶴の温かい笑顔は、虎之助にとっての支えとなるかのようだった。
「また会えますか?」
千鶴の言葉に、虎之助は一瞬ドキリとした。
彼の心の中で、彼女との再会を願う気持ちが芽生えていた。
「もちろんだ。俺は信長公のもとで戦っている。機会があれば、また会いに来る。」
その言葉を交わし、彼らは別れた。虎之助は心に不思議な高揚感を抱えながら、再び城へと戻った。
彼の胸の内には、千鶴との出会いが新たな力を与えてくれたように感じていた。
その後の数日、虎之助は千鶴との再会を夢見ながら戦に明け暮れた。
彼にとっての戦士としての使命感は、千鶴との出会いによって一層強くなり、彼は心の中で新たな決意を固めていた。
「俺は、千鶴に誇れる戦士になる。」
そう心に誓いながら、彼は次の戦に臨む準備を整えていくのだった。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます