第5話 初陣の覚悟
虎之助が信長の家臣となってから数ヶ月が経った。
彼は毎日厳しい鍛錬に励み、他の家臣たちとも切磋琢磨しながら戦の技術を磨いていた。
織田軍の中での生活は決して楽ではなかったが、彼にとっては己を鍛え、父の仇を討つための貴重な機会だった。
ある日、信長から召集がかかり、家臣たちが清洲城に集められた。
戦が始まることが告げられたのだ。織田軍は、今川軍との戦を目前に控えていた。
これが虎之助にとって、初めての戦場となることが決まったのだった。
広間で信長が戦の指示を出す中、虎之助はその話を真剣に聞いていた。
今川義元の軍勢は大規模であり、織田軍との戦いは厳しいものになるだろうという噂が広まっていた。
しかし、虎之助の中には恐怖はなかった。それどころか、彼の心には燃え上がる決意があった。
「これが、俺の初陣か……。」
戦が近づくにつれ、家臣たちの間にも緊張感が漂っていた。
誰もが自分の命を賭けて戦う覚悟を固めていた。
虎之助もその一人だったが、彼の心にあるのはただ一つ、信長のために戦い抜き、そしていつか父の無念を晴らすことだった。
「虎之助、準備はできているか?」
戦支度をしていると、同じ隊に配属された咲が声をかけてきた。
咲は、かつて村で出会った少女であり、今では織田軍の一員として共に戦うことになっていた。
彼女もまた、強い決意を持って戦に臨むことを決めていた。
「もちろんだ。俺たちが負けるわけにはいかない。」
虎之助はそう言いながら、鋭い目で武具を整えた。
咲もまた彼の姿に頷き、互いに士気を高め合った。
彼らの絆は戦場でさらに深まっていく予感があった。
そして、戦の当日が訪れた。
織田軍は静かに出陣し、虎之助もその一員として前線へと向かう。
草むらの中で待機しながら、敵軍の動向を伺っていた。
虎之助は、初めて感じる戦場の緊迫感に、自然と体が引き締まるのを感じた。
「敵が来るぞ!」
突然、前方からの報告が飛び込んできた。
今川軍が進軍してきたのだ。
虎之助はすぐに槍を握りしめ、戦闘態勢に入った。
自分の中で何かが高まるのを感じながら、彼は静かに息を整えた。
「ここで俺の覚悟を見せる時だ……!」
今川軍との距離が縮まる中、虎之助は心の中で自分を奮い立たせた。
敵の大軍が迫りくる姿に、家臣たちは動揺していたが、彼は一歩も引かず、前を見据えていた。
信長のために、そして己のために、ここで戦わなければならない。
「突撃だ!」
指揮官の合図が響き渡ると同時に、虎之助は仲間たちと共に前へと駆け出した。
敵陣との衝突が目前に迫り、彼の目の前に数多の敵兵が現れる。その中で虎之助は、槍を振りかざし、次々と敵を討ち倒していった。
戦場は混沌とし、どこからともなく矢が飛び交い、剣戟の音が響く。
虎之助は冷静さを保ちながらも、戦の熱気に飲み込まれることなく、ひたすら前へと進んでいった。
彼の心には、一つの言葉が響いていた。
「信長公のために、俺はこの戦場で生き抜く。」
そう決意した虎之助は、目の前の敵を倒し続け、やがて今川軍の前線を突破することに成功した。
初陣ながら、彼の勇猛さと冷静な判断力は、仲間たちにも感銘を与えた。
戦が終わり、織田軍は今川軍に対して見事な勝利を収めた。
虎之助もまた、初陣での大きな成果を上げ、信長の家臣としての一歩を踏み出したのだった。戦の後、信長は彼の戦いぶりを見届け、静かに言葉をかけた。
「虎之助、よくやった。この調子で戦場を駆け抜け、己の力をさらに磨け。」
その言葉に、虎之助は深く頭を下げ、信長の期待に応える決意を新たにした。父の仇を討つためには、まだまだ道は遠い。
しかし、彼は一歩ずつ確実にその道を歩み始めていた。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます