第3話 信長との邂逅

清洲城の中に足を踏み入れた虎之助は、その壮麗さに一瞬圧倒されながらも、決して怯まず進んでいった。

咲も彼の後ろを静かに歩き、二人は城内の広間へと導かれた。

そこには、信長の家臣たちが忙しく動き回っており、厳粛な空気が漂っていた。


「ここで待て。」


先導してきた兵士がそう告げると、二人は広間の一角で待機することとなった。

咲は不安そうに周囲を見回していたが、虎之助はただ一心に前を見据えていた。

織田信長という名将に対面できるかどうか、この瞬間に全てがかかっているのだ。


「虎之助、これで本当に大丈夫なの?」


咲が小声で尋ねたが、虎之助は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


「信長様に会えれば、それで道は開ける。父上の仇を討つためにも、俺はこの道を進むしかないんだ。」


その言葉に咲は頷き、彼の決意を再確認するように感じた。

時間が経つにつれ、広間の緊張感が増していく。やがて、大きな扉が音もなく開き、一人の武将が姿を現した。


「……織田信長公、お越しになる。」


家臣たちが一斉に姿勢を正し、広間全体が厳粛な空気に包まれた。

そして、現れたのは、甲冑を身にまとい、その鋭い眼光で周囲を圧倒する男、織田信長その人だった。

彼の姿は、虎之助の想像を超える威厳に満ちており、その存在感は言葉では言い表せないほどだった。


「……お前が吉井虎之助か。」


信長の声は低く、鋭く、広間に響き渡った。虎之助はすぐさま跪き、頭を垂れた。


「はい、信長公にお目にかかれること、大変光栄に存じます。」


その瞬間、広間の静寂がさらに深まり、全員が二人のやり取りを見守っていた。

信長は虎之助をじっと見つめ、しばらくの間、何も言わなかった。そして、ゆっくりと口を開いた。


「何のために私に会いに来たのか、話してみよ。」


その問いに、虎之助は深く息を吸い、覚悟を決めた。


「俺は、父を織田軍の侵略で失いました。村を焼かれ、家族も、故郷も、全てを奪われました。しかし、俺は恨みを抱くためにここに来たのではありません。俺は、その力を目の当たりにし、この戦国の世で生き抜くためには、織田信長公の下で戦うことが唯一の道だと確信しました。どうか、信長公のお力をお借りし、俺に戦う術を授けてください。」


虎之助の言葉に、広間の家臣たちがざわめき始めた。

織田信長に敵対する者がその門を叩き、仕官を願い出るなど、前代未聞のことだった。しかし、信長は微動だにせず、虎之助の言葉を受け止めていた。


「父を殺されたというのに、なぜ私に仕えると申す?」


信長の問いに、虎之助は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに真っ直ぐな目で彼を見据えた。


「この戦乱の世で、ただ憎しみだけで生きることは無意味です。織田信長公の力は、この国を変えるに値するものだと信じています。だからこそ、俺は自分の力を信長公の下で磨きたいのです。」


信長は虎之助の言葉を聞き終えると、しばらくの間沈黙を保った。

広間にいた誰もが、その答えを待ちわびていた。

そして、やがて信長は静かに笑みを浮かべた。


「面白い。父を失いながらも私に仕える道を選ぶとは、なかなかの覚悟だ。しかし、この私の下で戦うというのは、簡単なことではないぞ。」


信長の声には冷たさと同時に、虎之助の覚悟を試すような挑発的な響きがあった。


「それでも構いません。どんな試練でも、俺は耐え抜いてみせます。」


虎之助の決意に満ちた声が広間に響き渡る。その瞬間、信長は興味深げに彼を見つめ、しばらくの間考え込んだ後、静かに頷いた。


「よかろう。お前の覚悟が本物なら、まずは私の目の前でそれを証明してみせよ。」


信長は家臣たちに指示を出し、すぐに試験が行われることとなった。

虎之助はその場で弓の腕を披露することを命じられ、城の中庭での試練が始まる。

その日、虎之助の運命は大きく動き出した。

信長の家臣となるための試練を乗り越え、新たな戦乱の道を歩むこととなった彼の未来には、数々の試練と戦いが待ち受けていたのだった。


続く


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