第2話 新たなる旅立ち

村を焼き尽くした炎の残り香が、虎之助と咲の心に深く刻みつけられた。

彼らは村を後にし、必死で逃げ続けた。夜の闇が二人を包み、月明かりが道を照らしていたものの、心は不安で満たされていた。


「虎之助……私たち、これからどうすればいいの?」


咲の声は震えていた。

生まれ育った村を失い、今や行き場のない二人。虎之助もまた、未来がどうなるのかは全く分からなかったが、彼には決して負けられない覚悟があった。


「今はとにかく生き延びるんだ。父上の言葉通り、俺たちはまだ生きている。それを無駄にしてはいけない。」


虎之助の目には決意の光が宿っていた。

村が焼かれ、家族を失った痛みは計り知れないものだったが、その悲しみを力に変えて進むしかない。

彼には、戦乱の世を生き抜くために新たな道を見つける必要があった。

夜が明ける頃、二人はようやく尾張の領地を抜けることができた。

広がる田畑の中で、虎之助は立ち止まり、遠くを見つめる。


「咲、俺は決めた。このまま流浪の民として生きるわけにはいかない。俺は織田信長に会いに行く。」


「信長に……会いに?」


咲は驚き、虎之助を見つめた。織田信長は尾張の国を治める大名であり、その名はこの戦国の世で広く知られていた。

しかし、彼は冷酷で容赦のない人物としても有名だった。

そんな男に会いに行くとは、まさに命がけの決断だった。


「そうだ。俺はこの手で父の敵を討ち、村を焼き尽くした者たちに報いをさせる。だが、そのためには力が必要だ。信長に仕えることで、俺は強くなりたい。」


虎之助の言葉には、怒りと同時に強い覚悟が込められていた。

織田信長という大きな存在に挑もうとする虎之助の姿に、咲は心を動かされる。


「分かった。私も一緒に行くわ。あなたがそう決めたなら、私はどこまでもついていく。」


咲の返事を聞いて、虎之助は静かに頷いた。彼女の覚悟もまた本物だった。

二人は新たな旅に向けて歩みを進めることになった。


城への道


尾張の平野を越え、二人は織田信長が治める清洲城を目指していた。虎之助にとって、この旅はこれまでの自分を変える第一歩であり、同時に大きな試練でもあった。

信長の家臣として迎え入れられる保証はどこにもなく、むしろ追い返されるか、命を失うかもしれない。それでも、彼は進まざるを得なかった。


「信長の軍に加わる者は多いと聞くが、彼に会うことすら難しいだろうな。」


虎之助は心中で考えながらも、足を止めることなく城への道を進んだ。

やがて、清洲城が遠くに見えてきた。

高くそびえる城壁に囲まれ、威厳を放つその姿は、戦国の覇者にふさわしい佇まいをしていた。


「ついにここまで来た……。」


咲はその壮大な城を見て思わず息を呑んだが、虎之助は冷静だった。

彼にはやるべきことがあった。


城門に近づくと、武装した兵士たちが二人を睨みつけていた。

彼らは簡単には城に入れないという雰囲気を漂わせていたが、虎之助は堂々と兵士の前に立ち、深く一礼した。


「俺は吉井虎之助。この国の未来を築くため、織田信長様にお会いしたく存じます。」


兵士たちは一瞬驚いたが、すぐに笑みを浮かべた。


「お前のような若造が信長様に会えると思っているのか?ここはそんな簡単な場所ではないぞ。」


「わかっています。それでも、俺には信長様に会う必要がある。俺の命を懸けても構わない。」


虎之助の言葉に、兵士たちはその覚悟を感じ取ったのか、互いに目を合わせた。

そして、一人の兵士が虎之助を見つめ、ゆっくりと頷いた。


「分かった。その覚悟が本物なら、一度だけ門を通してやろう。ただし、信長様が会うかどうかは別の話だ。」


こうして、虎之助は清洲城の門をくぐることを許された。ここから先、彼の運命が大きく変わる瞬間が近づいていた。


続く


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