第2話「ノスタルジーの面影」④

津上らは10分程歩いたのち、ある倉庫に辿り着いた。津上はそのまま倉庫に入ろうとしたが、木本がそれを静止した。


「何度も言っているでしょう。アーボットが先行し、その後ろを私たちが行く」


津上は引き下がった。アーボットが倉庫に入っていく。それを追うように津上たちも入っていった。


倉庫には窓一つなく、監禁にはもってこいだった。アーボットが地面を照らす。そこを見ると、地面に注射器が落ちていた。アーボットが検査をする。結果としては、注射器の針に付着しているのは海田の血で、注射器内からは静脈麻酔薬のプロポフォールが検出された。


「どこかで麻酔薬を打たれて、ここまで連れてこられたんでしょうね」


木本はAR時計のホロディスプレイを見せてきた。


「この倉庫の所有者は眞崎美緒しんざき みお。ここから徒歩5分ほどの所に住んでいるみたい」


「では話を聞きに行きましょうか」


津上らは倉庫を出た。犯人はその女で間違いないだろう。津上は拳を握りしめた。しかし一つの疑問が浮かぶ。海田を誘拐した理由だ。強盗ならあそこまでする必要性はない。と言うことは、動機は一つしかない。


津上らは一軒の家に着いた。表札には「眞崎」と書いてある。木本はインターホンを鳴らした。家の中から女性の声がする。ドアが開き、女性が顔を覗かせてきた。


「はい。どちら様ですか」


木本はAR時計で身分証を提示する。


「刑事局です。眞崎美緒さんですね」


女性は静かに頷く。


「あなたの所有している倉庫に人が監禁されていた可能性があります。お手数をおかけしますが、ご同行願えますか」


女性は静かに外へ出てきた。木本はそのまま女性に近づこうとする。そのとき、津上は唖然とした。女性の手には料理包丁が握られている。津上は木本の腕を掴み、後ろに引き寄せた。女は包丁を振りかざす。


その瞬間、女はバチバチと言う音と共に床へ転倒した。後ろを見ると、城内がG-117を構えている。助かった。安堵で足の力が抜け、津上は地面にしゃがみ込む。


「だから無茶をするなと言ったんだ」


そう言いながら、城内は津上たちに歩み寄ってきた。城内は津上に手を差し伸べる。津上はその手を掴み、立ち上がった。


「中に子供たちがいる。早く行って保護するんだ」


津上は頷き、家の中に向かって走った。

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