第1話「一つの理性」②

装備を身に着けてからティルトローター機V-1に乗り込む。城内が端末を操作して目的地を入力する。その瞬間にエンジンが起動し、体が浮かぶ感覚を覚えた。乗り心地は悪くないが、この二人と乗り合わせるのは少し気まずかった。


20分程で軽井沢に着いた。21世紀には避暑地として金持ちが挙って別荘を持っていたらしいが、今では温暖化によって見る影もない。


「ドローンがあのビルに入っていった容疑者を確認したようだ。これからあそこに突入する」


そう言って拡張現実AR時計を操作し、アーボット2台を起動させた。その2台は颯爽とビルの中へ入っていく。


「研修所で学んだから知っているだろうが、無茶なマネはするな。鑑識、追跡、逮捕はあの機械がやる。お前はそれを見守っておけばいい」


津上は静かに頷く。今は23世紀。昔の刑事の様に「ホシは自分の足で捕まえる」などというのは、映画の中だけだということは理解していたつもりだった。


3人はビルの中に入っていった。とても古く、築50年は優に過ぎているだろう。照明もほぼ全てが壊れており、暗視グラスが無ければ一寸先も見えない。


アーボットはある部屋に入っていった。その部屋だけは小綺麗にされており、人が住んでいたことが見受けられる。


「奴はここに住んでいたんだろう。この部屋だけ食べ物の容器が落ちている」


「何だか急いで出て行った感じがしますね」


そんな話をしていると、後ろから走り去る気配がした。部屋を飛び出る。姿はよく見えなかったが、ここには自分たちと容疑者しかいないはずだ。走って追いかけようとする。その時、城内に大声で静止された。


「津上!追跡するな!それはアーボットの仕事だ」


そう言ってAR時計を操作するが、アーボットは言うことを聞かない様子だった。


「くそっ!また誤作動か」


津上はいても経ってもいられず、走って追いかけ始める。城内たちの声が聞こえた気がするが、今ここで逃がす訳にはいかない。階段を駆け上がり、屋上へ出る。そこには1人の男が地上を見下ろしていた。


「そこから飛び降りたら死ぬぞ」


こちらの声に気づいた男は、驚いた様子で顔を向けてきた。


「大人しく地面に伏せるんだ」


そう言いながら、腰のベルトから指向性マイクロ波銃マイクロ波ガンを取り出して構える。


その時、後ろから木本が走って近づいてきた。隣に並び、同じくマイクロ波ガンを構える。


「無茶をするなと言われたでしょ!」


ものすごい剣幕で凄まれ、言葉が出てこない。


「何をごちゃごちゃ言っているんだ!さっさと失せやがれ!」


「刑事局です。大人しく投降しなさい」


「俺は投降なんてしない!いいからさっさと失せろ!」


そんなやり取りをしていると、突然プロペラの音が聞こえてきた。男の後ろに小さい影が見える。男も気配に気が付いたのか、後ろを向く。そこにはドローンが飛んでいた。勢いをつけて男の顔面にぶつかる。男はふらふらしながら後方に転倒した。津上たちはすかさず男にマイクロ波ガンを撃ちながら拘束した。


AR時計から着信音が鳴る。その電話は城内からだった。


「このバカ!無茶なマネはするなと言っただろ!」


時計から怒声が響く。津上は平謝りしながら頭を下げる。


そのとき、男が突然泡を吹きながら苦しみ出した。白目を剥きながら激しく痙攣する。男はあっという間に動かなくなった。男の手元を見ると、高価そうな時計をしている。腕時計を外すと、手首側に針が突き出ているのが見えた。恐らく捕まったときのために仕込まれていたものだろう。時計には「M・L」と言う文字が彫られていた。

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