男子はバトル

 フィオナと恋バナがしたいオルディーネの一言で、席を外されたリオネルとダリウスは、剣を携えて館の庭先に出ていた。


「その剣、使い心地はどうだ?」


「良いよ。使い古しという割には、新品みたいな使い心地だったけど」


 ダリウスの言葉に意地の悪い微笑みを向け、リオネルは剣の柄にポンと手を置く。

 そんなリオネルに、ダリウスは顔をしかめて「分かっていて貴様はそう言うか」と、ため息を吐いた。


「リリア、そこで座って見てるんだ。いいね?」


「はーい」


 ダリウスが石柱を生やして馬を停めたように、リオネルは魔法で作った、石で出来た小さな椅子を玄関の近くに生やすと、リリアをそこに座らせる。


「魔法は無しにしよう。あくまで剣技だけ」


「そうだな。私とリオネルが本気でやってしまうと、少々まずい事になるからな」


「本気だと、村が無くなっちゃうよ」


「分かっている。もう一つ、条件を付けよう」


 そう言って、ダリウスは腰に掛けていた剣を鞘から抜いて地面に向かって振りおろし、風の魔法を発動させると、地面を切り裂き円を描いてリオネルと自分を囲んだ。


「あのさあ。人んちの庭なの分かってる?」


「む。すまない」


「あとでちゃんと直してよ?」


「分かっている」


「で? この円から出たら負けって感じでいいの?」


「そうだな。これなら館にも傷は付くまい?」


 剣を片手で突き出したなが、ダリウスがニヤッと笑ったので、リオネルも笑い返すと、鞘から剣を抜いて片手で剣を突き出す。

 交差する刃と刃。

 その二つがカチンと、小さく音を鳴らす。


 それを合図にして、二人は一歩、踏み込んだ。


 交錯する剣先がダリウスとリオネルの体や頬を掠める。

 

 描いた円の中央、二人はほとんど動かずに剣を合わせるが、リオネルの方がやや優位か。

 少しずつ、ダリウスが後退りを始めた。


(制限付きでこの剣捌き。やはり強いな、親友)


 ここでダリウスが、やや剣速を上げるために力を込めて剣を振る。

 戦場での戦いなら、蹴ったり殴ったり、魔法を使って血生臭くなっただろうが。


 今はあくまでも鍛練だ。

 リオネルとダリウスは初めて剣を合わせた時を思い出しながら、剣の腕だけを競っている。


 その様子を、リビングからフィオナとオルディーネが見ていた。

 エメラの入れた紅茶片手に、試合観戦の様相だ。


「国で一二を争う騎士さまの剣をこうして見ることが出来るなんて。なんだか申し訳ないです」


「王都で試合させれば、コロシアムは満員になるだろうからな」


「今のリオネルさんの刺突、ダリウスさんは避けましたが、見えてるんでしょうか」


「勘もあるだろうが、まだ見えている範疇だろうな。二人の本気はもっと凄い。というか、フィオナ。お主、今のリオネルの刺突が見えたのか。常人なら既に目では追えん速度だぞ?」


「私も、冒険者だった頃は前衛で戦ってましたので、目は良かったんです。ただそのせいで呪毒まで見てしまって」


「なるほど? お主も剣を使うとは予想外だ」


「あ、いえ。私武器は使わないんです。拳と脚、格闘が得意でした」


「拳術家か⁉︎ はあ〜、可憐な見た目には似合わんなあ」


「も、もったいないお言葉です」


 リオネルたちの稽古を見ながら、話が弾む女性陣。

 そんな女性陣とは別に、外で二人の稽古を眺めていたリリアは何を思うか。

 初めて見る父の戦う姿に、娘は自然と拳を握りしめて力を入れていた。


 見惚れていたのかもしれない。


 リオネルやダリウスにではなく、交錯する剣そのものに。


 しばらくの間、リオネルとダリウスで剣による音楽が奏でられていたが、不意にその音楽が鳴り止んだ。

 リオネルとダリウス、両名の首筋に剣の刀身が突き付けられたのだ。


 結果としては相打ち。


 二人は肩で息をしながら、剣を下ろした。


「やはり強いな。リオネル」


「ダリウスもね」


 下げた剣を鞘に納め、二人は握手を交わす。

 そんな二人に「次は私だ!」と、玄関を開けて外に出て来たオルディーネが言い放った。


「少しだけ休憩させてくれません?」


「構わん。それまで私は体を温めておく」


 肩をすくめながら言ったリオネルに、オルディーネは玄関の近くに立て掛けていた大剣を手に取りながら言ってリオネルとダリウスが立っていた円の中に入って素振りを始めるために剣を構えた。


 剣の鍔に刻まれた魔法文字により、重量が軽減されているとはいえ、十分重い大剣を持ち上げるオルディーネ。


 その様子を見ながら、リオネルは円のすぐ外に出る。

 そしてダリウスは、オルディーネと一緒に出て来たフィオナがリリアの隣に立っていたので、リリアを挟んでその隣に立った。


「リオネルのご友人、フィオナさんと言いましたか」


「あ、はい」


「私から言うことでは無いのですが、彼のこと、よろしくお願いします。アイツは、なんでも出来るように見えて不器用な奴なんで」


「私は出会ってから助けられてばかりなので、自信を持って『はい』とは言えないのですが、頑張ります」


 ダリウスの目を真っ直ぐ見てそう言ったフィオナに、ダリウスは頷き、微笑む。


 顔が良いダリウスのその微笑みは、本来なら町行く娘らを魅了するほどだったが、リオネルに一途なフィオナは頬を染めることすら無かった。

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