来訪者
エメラへの贈り物で、家憑き精霊であるエメラと会話できるようになったリオネルたち。
精霊エメラは食事をしないが、テーブルにつき、会話をしていたエメラはいつも以上に楽しそうに過ごしていた。
後片付けの際も、文字を投影する際は手を止めてしまうが、会話が出来れば家事も楽しくなるらしく。
エメラがフィオナと夕食の片付けをしていた際には、エメラの歌声が聞こえてきたくらいには上機嫌だった。
「聞かない歌だね」
食後の片付けを任せ、リリアに本を読んでいたリオネルがふと呟いた。
その呟きに、皿を棚に片付けていたエメラが答える。
「主が色々教えてくださいまして。故郷のアニソンという種類の歌らしいです」
「あにそん? へえ〜。明るい曲調だ、楽しそうで良いね」
「本当に色々あるそうです。教えていただいた曲の中には荘厳な物や、物悲しいもの。国歌とまで言われたらしい物もあります」
「くにうた? 占い師さんってどこの出身だったんだろ」
「異世界です。ニホンという国から来たと言っていましたよ?」
エメラの言葉に、リオネルと、片付けの手伝いをしていたフィオナが同時に「異世界⁉︎」と、声を上げた。
その様子に、エメラとリリアは驚いて肩をビクつかせる。
「異世界のニホンってことは、地球って星から来たって事だよね⁉︎」
「本で読んだことがあります! 魔物がいなくて、魔法の代わりに科学という機械文明が発達している世界だと本には書いてました!」
「本当に存在したんだ! 異世界人って!」
「よ、よくご存知ですね」
やや興奮気味に話すリオネルとフィオナ。
そんな二人の様子に、エメラは「とりあえず落ち着いてください」と両手をあげてジェスチャーしながら二人を宥める。
そんなリオネルとフィオナの様子を眺めていたリリアが「異世界?」と疑問を浮かべながら首を傾げた。
「この世界ではない、別の世界のことだよ。一説では夜見る星の一つだとか、全く異相の世界だと言われていてね」
「難しい」
「そうだね。実際のところ異世界に関しては全く理解出来ていない。何せ観測できないからね」
「でもでも。そんな全く世界からやってきた人たちがいるっていう記述が記された本は世界中にあるんですよ。しかもずっと昔から」
片付けを終え、エメラとフィオナがダイニングにやってきた。
そんな二人を見て、リオネルは「よし。リビングで話そう」と、楽しそうに微笑んで立ち上がる。
その提案にフィオナもエメラも同意して、リオネルはリリアを抱っこしてリビングへ向かった。
「さて。それじゃあエメラさん。話してもらってもいいかな?」
「かしこまりました。とはいえ今から話すのはあくまでエメラが主から聞いた話。信じるか信じないかは、リオネルさまやフィオナさま次第です」
「私、異世界の話好きなので。お願いします」
「俺も好きなんだよね。異世界の話。本や空想じゃない。異世界人だった本人から聞いた話なら尚更だ。いやあこの話、俺たちだけが聞いてもいいのかなあ?」
「主曰く、異世界の話をすると気狂いだと思われるそうで。この場所に来る前に住んでいた場所では苦労なさったようです」
「エメラさんは信じたんでしょ?」
「契約したエメラには、主が嘘をつけば分かりますから。まあ、主がエメラについた嘘は。死ぬ前にエメラに言った『大丈夫。また会える』という言葉だけでしたけど」
リビングの真ん中に敷かれたふかふか絨毯の上。
置かれたクッションの上に腰を下ろしたリオネルの言葉に、同じように腰を下ろしたエメラが、少し寂しそうに俯きながら答えた。
しかし、リオネルは「俺はその言葉、嘘のつもりで言ったようには思えないけどなあ」と、俯いたエメラに言って困ったように眉をひそめる。
「今生では天寿を真っ当してしまったから、確かに嘘にはなっちゃったけど。多分占い師さんは信じたんじゃないかな。次また生まれ変わったら、きっと会えるって。だって異世界人だったんだよね? なら一回死んで、転生しているんだろ? あ、転移してくる人もいるんだっけ」
「主は、転生してきたそうです」
「本当ですか⁉︎ か、神様に会ったとか、言ってましたか?」
エメラの言葉に、フィオナが声を上げた。
そんなフィオナの明るい声に、エメラは苦笑して「では、しばらくエメラと主の昔話にお付き合いください」と、ただの妖精だった自分が主と出会ってから別れるまでの思い出話を始めた。
その話を、絵本を読んでもらっていた時のような気持ちで、リオネルもフィオナも、そしてリリアも聞き入る。
時折「地球にはなんで魔力がないのでしょうか」と考えたり「じゃあ結局その異界渡りの魔法に失敗したから、占い師さんは故郷の世界に帰ることは諦めたんだね」と、感想を挟んだりして話をしながら夜を過ごすが、途中でリリアは眠ってしまう。
それを見たリオネルが毛布を持ってきて、しばらく話を続けたが、気付けばリオネルもフィオナも眠気に負けて、その日はリビングで並んで眠ることになった。
その翌日。
すっかり日が高く上った頃。
リオネルとフィオナは目を覚ます。
そして、再びエメラの主の話も交えながら朝食を食べていると、エメラが不意に「リオネルさま」と、いつもの優しい口調とは打って変わって冷たい声でリオネルを呼ぶと、ダイニングの窓から外を眺める。
「誰か来たね。俺が出るよ」
「わ、私も行きます」
玄関の扉がノックされた訳ではなかったが、リオネルも館の敷地内に誰か来た事を感知して、それまでの談笑ムードから一転。
少し警戒した様子でリオネルやフィオナは椅子から立ち上がった。
それというのも、村長や村の住人がやってきた雰囲気ではないというのが、馬のいななきや、金属の擦れる音で分かったからだった。
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