エメラへの贈り物
エルフのシダルドが営む魔道具屋にて、共鳴石が組み込まれたチョーカーを手に入れ、館へと帰宅したリオネルたち。
時間は夕刻。
オレンジ色に染まった空を、四枚羽の鳥型の魔物が三羽並んで山の方に向かって飛んで行ったのが、空を見上げていたリリアの目に映った。
「ただいまあ」
「ただいま帰りましたあ」
玄関の扉を開き、抱っこしていたリリアを下ろすと、リオネルはエメラを探してリビングへ向かうが姿は見えず。
ならばダイニングかキッチンだなと、そちらに向かうが、そこにもエメラの姿はなかった。
「あれ? ここにもいないや。じゃあ二階かな?」
呟いて、リリアやフィオナと二階に向かおうとするが、そんな時にキッチンの奥にある裏口の扉が開き、外からエメラが帰宅した。
手に持っている小ぶりのカボチャを見るに、どうやら裏庭にあるらしい家庭菜園に行っていたようだ。
『あ、お帰りなさいませ。今から夕食の用意を致しますので、しばらくお待ちください』
文字を投影し、シンクの中にカボチャを置くエメラ。
そんなエメラにリオネルは直接チョーカーを渡さず、リリアに木箱を持たせてエメラに渡しに行くように背中を優しく押して促した。
「お姉ちゃんにプレゼントだよって」
「分かった」
リリアはリオネルからチョーカーの入った木箱を受け取ると、それを両手で手に持ちエメラの方に向かっていく。
そして、リリアと視線を合わせるために床に膝をついたエメラに「はいこれ。お姉ちゃんにプレゼント」と、木箱を差し出した。
『これは?』
「チョーカーだよ。首に巻くアクセサリーなんだけど。真ん中に二つ共鳴石が並んでるから魔力を込めてみて。これで、話せるようになるはずだから」
リリアから受け取った木箱を開け、中から黒い紐のチョーカーを取り出すと、エメラは言われるままに丸を二つくっ付けたように並ぶ共鳴石に自分の魔力を込めて、首に巻く。
そして、首の後ろの留め具を付けると、チャーカーの紐に青白い光が走り、エメラの首にフィットするようにサイズが変更された。
「あ、あの。聞こえ、聞こえる⁉︎ この体で!」
聞こえますか? と、聞こうとしたエメラの声が、自分に聞こえ、エメラは驚いたのか口元を抑える。
その様子に、リオネルとフィオナは顔を見合わせて笑い、エメラは興味津々といった様子でエメラを見上げる。
「これがエメラさんの声なんだねえ。人形の見た目とよく合ってる。女の子らしくて可愛い声だね」
「シダルドさんの発明品すごいですね。本当に精霊さんとお話しが出来るようになるなんて」
「ありがとうございますリオネルさま。フィオナさま。そしてお嬢さま。こうして声で話が出来て、エメラはとても嬉しいです」
そう言って、エメラはニコッと笑うと目の前にいるリリアに両手を伸ばして抱きしめる。
そんなエメラにどうしていいか分からず、リリアは両手をにぎにぎと迷わせるが、近付いてきたリオネルに「お返ししてあげな」と言われ、リリアはエメラを抱き返した。
「さて。じゃあ夕食の支度を頼もうかな? エメラさん。お願い出来るかな?」
「はい。エメラにお任せください」
エメラはリリアを離してそう言うと立ち上がり、笑顔を浮かべたままスカートの裾を持ち上げると、頭を下げてキッチンに戻って、鼻歌を口ずさみながら夕食の準備を始める。
「エメラさん。嬉しそうですね」
「文字で意思疎通は出来るけど、話せるなら、やっぱり話したいですよね。それがこうして出来るようになったんですから。それはやっぱり嬉しいですよ」
リオネルの言葉にフィオナは答えて微笑んだ。
自分もほんの先日までは目が見えなかったのだ。
エメラの胸中にある喜びは手に取るように分かっていた。
「さて、じゃあ夕食が出来るまで俺はリリアとリビングで寛いでようかな」
「あ。じゃあ私はエメラさんのお手伝いします」
「フィオナさん。料理できるの?」
「冒険者は料理出来ると重宝されますからね。昔は練習してたんですよ?」
リオネルの言葉に腕を曲げ、拳を握ってあまりない力こぶを見せようとするフィオナ。
そんなフィオナに、リオネルは「へえ。そうなんですか。じゃあ今日はいつも以上に夕食が楽しみですね」と、笑顔を浮かべる。
「とはいえしばらく料理は出来なかったわけですので、今日はお手伝いだけですけどね」
そう言って気まずそう苦笑すると、フィオナはリオネルとリリアの横を通り過ぎてキッチンへと向かっていく。
その背中を見送って、リオネルはリリアを連れてリビングに行こうとしたが、どうやらリリアはダイニングからエメラやフィオナの様子を見ていたかったようで「ここで絵本読んでもいい?」と、リオネルを見上げて言った。
そんなリリアに「いいよ。じゃあリビングに絵本を選びに行こうか」と、微笑むと、リオネルはリリアと手を繋いでリビングへと向かう。
そして、選んだ絵本を持ってダイニングに戻ってくると、椅子に座ってリオネルと共に夕食までの暇をつぶすのだった。
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