村の魔道具屋さん

 エメラと会話できる可能性を模索し、村に共鳴石を探しにきたリオネルたちは、思い付きから村長宅を訪れていた。

 そこでフィオナの目が回復した話と、館での生活、というよりは占い師の忘れ形見であるエメラと仲良くしている話を村長に報告するリオネルたち。


 そんなリオネルたちの話を、村長は今は亡き息子たちから聞くように優しい笑顔を浮かべながら聞いていた。


「あの子と話がしたい、か。今までそんな事を言ってきた村人は一人もいなかったが。そうか、ならこの道を真っ直ぐ行った丘の上にポツンと一軒家が建っているからそこを訪れるといい」


「誰が住んでおられるんです?」


「この村の魔道具屋だよ。僕たちと一緒にこの村に来た仲間のうちの一人だ」


「そうですか。分かりました、ありがとうございます村長さん」


「かまやしないよこのくらい。じゃあ、気を付けてね」


 こうして村長と自宅前で別れ、リオネルたちは指し示された道を歩いて丘へと向かう。

 位置関係的にはリオネルたちが暮らす館の正反対だが、まだ魔道具屋の方が村には近かった。


「どんな人がお店をされているんでしょうか」


「村長さんと一緒にこの村に来たってくらいだから、村長さんと同じ歳くらいの人なんじゃないかなあ」


 そんな会話をしながら、すれ違う村人や、出稼ぎに来ているのであろう装備に身を包んだ冒険者風の男女と挨拶を交わして丘へ歩いていく。


 そしてしばらく歩いてなだらかな丘を上っていると、リオネルたちは小さな木造一軒家が建つ丘の上にたどり着いた。

 丘の上とはいえ、大して高い立地でもないので景色は別に良くない。

 それでも、その丘には涼やかな風が吹き込み、近くの花畑から甘い花の香りを運んできた。


「外から見ると、普通のお家ですね」


「まあとりあえず、ノックしてみますか」


 フィオナの言葉に答え、リリアを地面に下ろすと、リオネルは唯一の扉に向かって手を伸ばす。

 しかし、リオネルがその伸ばした手でノックする前に、頭の上から「開いてるから入っておいでよ」と、少年の声が聞こえてきた。


 リオネルが声に驚き顔を上げると、そこには何やら薄く切った木を円錐状に丸めた物の真ん中に石が嵌め込まれているのが見えた。


「共鳴石だ」


 望みの物は見つかったが、取って帰るわけにもいかないので、リオネルは扉を開けると先に中に足を踏み入れ、リリアとフィオナを招き入れる。


「お客さんなんて随分と久しぶりだ。初めまして、この魔道具屋の店長、シダルド・ミルズ。友達からはシドって呼ばれたりしてるけど、まあ好きに呼んでよ」

 

 そう言ったのは扉を開けた先のカウンターの向こうで笑っていた、ボサボサの金髪頭のエルフ族の若い少年だった。

 寿命が長い種族の内の一つで、長い耳を持ち、老化も遅いのがエルフという種族。


 昔は森で狩や採取を行う狩猟民族として知られていたが、現在は人間や獣人たちと共生しており、都市部にも多く存在する。


「初めまして。つい先日村に引っ越して来ましたリオネル・ハーグレイブと申します」


「フィオナ・ベルです。初めまして」


「リリアちゃん。ご挨拶できるかな?」


「うん。リリア・ハーグレイブです。初めまして」


 リオネルに促され、ペコリと頭を下げたリリアを見て、魔道具屋の店長、エルフのシダルドはニコッと笑ってカウンター越しに頭を下げると、そのカウンターから回り込んでリオネルたちの方に姿を見せた。


「君たちが村長の言ってた子たちか。昨日一緒にご飯食べた時に言ってたよ。よろしく」


 そう言って、シダルドはリオネルに向かって手を伸ばす。

 その手をリオネルは握り返した。


「さて。ここに来た理由を聞かせてくれるかな? 館のトイレでも壊れた? それともお風呂? キッチン用品は大丈夫? 修理は任せてね、あのお嬢ちゃんからは色々聞いて、覚えてるからさ」


 館の話を出した上で、お嬢ちゃんと言ったということは、そのお嬢ちゃんとは間違いなく館の主であり、エメラの主人だった魔法使いのことだろう。

 

 その魔法使いは寿命で死んだと聞いている。

 そんな魔法使いをお嬢ちゃん呼ばわりとは、果たしてこの十代半ばにしか見えないエルフの少年はいったい何歳なのか? そんな事を頭の隅に追いやりつつ「実は」と、リオネルはこの場所を訪れた理由を話始めた。


「——というわけで、共鳴石が欲しくて」


「精霊と会話か。なるほど、あのエメラが君たちを受け入れたわけだ。しかしこういう時、君たちは不便だね。僕たちは精霊の声聞けるから……。ああごめん! 自慢みたいになっちゃった。そういう意味で言ったんじゃないんだ」


 シダルドの慌てる様子に「いえ、大丈夫ですよ」と、苦笑するリオネル。

 すると、そんなリオネルの横を通り過ぎて、リリアが壁に掛かっている魔石で動いている時計や、何に使うか分からない箱、嫌に派手なマントなどを見上げて首を傾げているのが見えた。


「リリア。触って壊しちゃダメだよ?」


「はーい」


「ああいやいいよ別に。壊れたら直せばいいんだからね。それより共鳴石ならいい物が代用出来るかも、ちょっと待ってて」


 どこにも行かないのに、両手で止まるようにジェスチャーしながら、シダルドは早歩きでカウンターの方に向かうと何やら木箱を開けて中をガチャガチャといじり始めた。


 しかしお目当てのものが無かったのか「あっれ、おかしいな」と、カウンターの奥の通路から奥の部屋へと行ってしまう。


 なかなか帰ってこないシダルドを待つ間、リオネルは店の中を眺めていた。

 よく分からないカラクリから、何やら魔石が組み込まれた剣や、歪な杖。

 魔法陣に使用する、魔法文字が刻まれた盾や鎧などの装備品もあって、元騎士リオネルは男の子の心をくすぐられ、興味を惹かれていった。

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