ちょっと村長宅へ
遅めの朝食を終え、出掛ける準備を終え、リオネルはリリアとフィオナを連れて村へと向かって歩いていた。
食事や入浴、睡眠で体力を取り戻したフィオナの足取りは軽い。
それもそうだ、ここ数年、闇の中で生きてきたが、現在は再び光を感じ、光の中で生きているのだから。
きっかけは見知らぬ自分に、目の見えない、見すぼらしい格好をしていたはずの自分に声を掛けてきてくれた青年。
あの日、例えば朝起きた時間がもう少し早くても遅くても、空腹から道草を食べた時間が早くても遅くても、もし自分が耳を塞いでいなかったら、道の端を歩いていたら。
些細なことで出会わなかった、出会えなかった、関わらなかったかもしれない。
もはや運命の出会いと言っても過言ではないリオネルと並んで歩いていることが嬉しくて、フィオナは少し頬を赤らめたまま、村への道を歩いていく。
そんなフィオナを、リオネルに抱っこされているリリアがジッと見つめていた。
「フィオナお姉ちゃん、お顔赤いの」
「え⁉︎ ほんとですか⁉︎ あ、あー! あれかなあちょっと暖かいからかなあ⁉︎」
突然のリリアの言葉に、声を裏返しながら手を振り顔と耳を振り、リリアに言い訳みたいに返事をする。
すると、そんなフィオナを見て、リオネルが「確かに今日は少し暖かいですからね。どこかで休みますか?」と、笑顔をフィオナに向けた。
「だ、大丈夫です! 私は大丈夫ですから!」
「わ、分かりました。でも、疲れたら言ってくださいね」
そう言って、リオネルは抱っこしているリリアに苦笑すると、その足を止めて「あ、そうだ。ちょっと村長さんに会いに行きませんか?」と、フィオナに聞く。
「何か御用ですか?」
「フィオナさんの目が治った事の報告をしておこうかなと思いましてね。気に掛けて下さっていたので」
「そうですねえ。私ももう一度、お顔を見ながらお礼が言いたいです」
「じゃあ先に村長さんのところに行きましょう。ついでに魔道具が売っているような店の場所も聞けますしね」
というわけで、リオネルたちは村長宅に向かって歩いていた。
そして、村の中央、住宅地にたどり着き、村長の家が見えてきた所で、その村長の家の前に何やら中年の男性が数名集まっているのが見えてきた。
どうやら村長さんに何か報告しているようだ。
「それはまた、なにゆえ姫様がこんな辺境の村に」
「先日越してきた青年、リオネルと言いましたか? 彼を連れ戻しに来るのでは?」
「いや、手紙にはそんな事は書いていなかったんだがなあ。あのお転婆姫のことだ、正直分からん」
そう言って肩を落とした村長と同じように、集まっていた、ただの村人というには体格の良い中年男性たちは同じように肩を落として、困ったように眉をひそめている。
リオネルからはその言葉が断片的にしか聞こえてこなかったが、困り事かと「村長さん。どうしました? 何かありましたか?」と、心配そうに声を掛けた。
「やあハーグレイブくん。いやなに、どうやら国の偉い方がこっちに向かっているらしくてね。視察の話は領主さまからは出ていないし。何用かと思ってねえ」
困っているというよりは、なんでこんな村に? という疑問を抱きながら村長は苦笑を浮かべてリオネルに答えた。
しかし、すぐに笑顔に戻り「まあ、後ろめたいことなんて何もないからドンと来いだけどね」と、集まっていた村人数人に笑い掛けて見せる。
そんな様子を見ながら、リオネルは(俺絡みか? いや、でも騎士団長には話をちゃんと通したし、違うか)と結論付けた。
「まあここで考えていても埒があかない、みんなとりあえず解散しようか。もしかしたら宿場町から北上するか、南下する可能性もあるからね。来たら来たで対応するよ」
「分かりやした。では、俺たちはこれで失礼しますぜ」
こうして、村人の男たちはその場を離れるかと思いきや「お前さんが先日越してきた奴だな」と、今度はリオネルやフィオナを取り囲む。
そして「騎士だったんだってなあ」「あの館で暮らしてるんだって?」「若いのにいいガタイしてんなあ」と口々に村の新入りに質問を投げかけ、いや、投げ付けていった。
そして「可愛い嫁さんに娘さんまで、羨ましいねえ、ガハハ」という村人の言葉に、リオネルもフィオナも顔を赤くしたしたところで村長から喝が入る。
「ほら! いつまで人んちの前で喋ってんだ! とっとと帰りな! 僕の客だぞ?」
「おっとこりゃ失礼。じゃあまたな村長」
村長の一喝で男共は退散。
そこにはリオネルたちと村長だけが取り残された。
「すまんね。悪い奴らではないんだが」
「分かりますよ。いい人たちですね」
「少々ガサツだがね。それで? 今日はどうしたんだい?」
改めて、リオネルたちが訪ねてきた理由を聞く村長。
そんな村長に向かって、フィオナが一歩前に出て前で手を重ねて頭を下げる。
「村長さん。初めまして、では無いのですが、この度エメラさんや占い師さんのおかげで目が見えるようになったので、報告に来ました」
「ほう。聞かせてくれるかい?」
こうして、フィオナは村長に目が見えるようになった経緯を説明する。
その話を聞いて、心配していたエメラとリオネルたちの関係に全く問題がないと感じ、村長は嬉しくなって優しい声で、ただ「おめでとう。本当に良かった」と笑顔を浮かべるのだった。
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