サンドイッチを食べたその後に

 エメラが夕食の準備を始めたので、リオネルは揚げ魚のサンドイッチが入ったバスケット片手に館の二階。

 フィオナの寝室に向かうために階段を上がっていった。


 ほんの少し、階段が軋む音が鳴り、その音でリオネルがやって来たのを感じたか、フィオナの寝室の扉が開き、そこからリリアが顔を覗かせる。


「リリア。お腹減ったろ? ちょっと遅いけどお昼にしよう。フィオナさんも一緒にね」


「うん、分かった」


 リオネルの言葉に頷き、リリアがフィオナの寝室に顔を引っ込めると「お姉ちゃん、ご飯だって」と、リオネルの耳にリリアの声が聞こえてきた。


 そして、わずかに開いている扉をノックすると、リオネルは寝室に足を踏み入れる。

 

「フィオナさん。お腹減ってる?」


 ベッドに座っていたフィオナの手元には絵本が開かれていた。

 どうやらリリアが読ませていたようだというのは、フィオナの横に座っているリリアの様子から見て取れる。


 そんな二人の様子に微笑みながら、リオネルは手に持っていたバスケットをベッドの横に置かれている、魔石で光るランプなどを置くための棚、シェルフの上に置き、中からサンドイッチを取り出した。


「ありがとうございますリオネルさん。お腹減ってきてたので、嬉しいです」


「お礼はエメラさんに、俺は受け取っただけですから」


 サンドイッチをフィオナに渡し、もう一つサンドイッチをバスケットから取り出すと、リオネルは近くの化粧台から椅子を引っ張り出しベッドの側に置くと、腰を掛ける。


「リリアもはいこれ。もうちょっとベッドの縁に座って食べるんだよ? 布団の上にこぼすと大変だからね」


「はーい」


 リオネルの言葉を聞いて、リリアはフィオナに背を向けて座り直すと、受け取ったサンドイッチにかぶりついた。

 それを見て、リオネルも最後の一切れをバスケットから取り出し、少し分厚めのサンドイッチにかぶりつく。


「ん〜。美味いね」


「野菜も新鮮で美味しいです。土がいいんでしょうか」


「おいし〜」


 油はどこから持ってきたのか、塩や胡椒はどこにあったのか。

 疑問は尽きなかったが、リオネルたちはとりあえずこの昼食のサンドイッチの味を楽しんだ。


「お昼食べたばっかりだけど、今日の夕食はお肉たっぷりだから、期待しててね」


「なんだか私ばかり貰ってばかりで、申し訳ないです」


「大丈夫。俺たちの分もあるよ」


「ああいえ。そういうことではなくて。私ばかり、こんなに皆さんに優しくしてもらって、申し訳ないなって」


 そう言って、俯いたフィオナを見て、リオネルとリリアは顔を見合わせると、リオネルは肩をすくめて苦笑する。

 それを真似したか、リリアも肩をすくめた。


「気にしすぎですよフィオナさん。ここまで一緒に来た仲。もはや知人というには関わり過ぎてますし、病が治ればその喜びは分かち合う。それをしているだけなんですから。あえて言うと、気にしないでください」


「はい。ありがとう、ございます」


 リオネルの言葉に顔を上げるが、リオネルの笑顔に顔を赤くしてフィオナは再び顔を伏せる。


 そんなフィオナの様子にリオネルは首を傾げるが、あえて理由などは聞かず、照れくさそうに鼻先を掻き「じゃあ俺は席を外します。ゆっくり休んでください」と、席を立ち、椅子を化粧台に戻した。


「リリアはどうする? 俺は下に行くけど」


「私も行く〜」


 立ち上がったリオネルを追うように、リリアはベッドから降りてリオネルに向かって手を伸ばした。

 その手を取って、バスケットを手に持つと、リオネルは「じゃあ、またあとで」と、フィオナに背を向けるが「あ、あの!」という声で立ち止まって振り返った。


「目が見えるようになったので、私。このお家の中、見てみたくて。その、もう一度、案内してくれませんか?」


「それもそうですね。分かりました、じゃあ一緒に下にいきましょうか。歩けます?」


 リオネルの疑問に答えるように、ベッドから降りると、まだ力が入りにくい足に力を入れて、一歩踏み出すフィオナ。

 しかし、まだヨタヨタしているので、リオネルはリリリアを片腕で抱え上げると、その抱えた手でバスケットを持ち直し、空いた手をフィオナに差し出した。


「どうぞ。捕まってください」


「う、あの」


「どうしました?」


「いえ。ここまで何度も肩に掴まったり、手を繋いだりしていただいたのに。目が見えるようになったらなったで、恥ずかしくなってしまって」


「フィオナさんは照れ屋さんだね。気にしないでいいんですよ。頼ってください。友達なんだから」


 この言葉に、フィオナは「はい」とは答えたが、内心では「う、友達かあ」と、ガクッと肩を落としたい気持ちでいっぱいだった。

 とはいえ、差し出された手を拒否するわけにもいかず、フィオナはちょんと指先をリオネルの手に乗せる。


「ゆっくりでいいですから。疲れたら言ってくださいね」


「……はい」


 こうしてリオネルはリリアを抱えたまま、フィオナの手を引いて、とりあえず一階へと向かう。

 そしてまずはキッチンに向かうと、エメラにバスケットを返してサンドイッチのお礼を言い、フィオナに館で中を再度案内するのだった。

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