新しい朝
騎士であった頃の習性が、騎士を辞めたからといってスパッとなくなるわけもなく。
リオネルは朝日と共に目を覚ますと、隣で寝ているリリアを起こさないようにベッドを出た。
そして静かに寝室から出ると、向かったのは隣の寝室。
フィオナの様子を見ようとしてドアノブに手を掛けたのだが、女性が眠っている寝室に無断で入ったり、覗いたりする行為を訝しんで、肩をすくめると、フィオナの寝室から離れ、一階へ向かった。
『おはようございます。お早い起床ですね』
顔を洗う為に洗面所へ向かったリオネルと、ダイニングから顔を覗かせたエメラが鉢合わせる。
手には小さなフライパンと、木ベラが握られていた。
どうやら朝食の準備までしてくれるらしい。
「おはようエメラさん。早起きは癖でね。エメラさんも早いね。ちゃんと寝たかい?」
『寝ました。久しぶりに快眠でしたよ』
「お。それは良かった」
『朝食ですが、スープとサラダでよろしいでしょうか。お肉や卵は無いので』
エメラが頭の上に投影した文字を眺め、リオネルは「ああ、それもそうか」と、手をポンと叩き頷く。
「お肉や卵は俺がまた買ってくるよ。だから料理は任せるね。俺そっちは、からっきしだから」
『もちろんです。お任せください』
リオネルの言葉に微笑むと、エメラはダイニングに引っ込み、そのままキッチンへと向かっていった。
それを見送ったあと、洗面所で顔を洗い、次に向かったのは玄関先の庭。
この館に到着した際、玄関の壁に立て掛けていた剣を手に外に出た。
親友から譲り受けた剣を鞘から抜き、両手で持って正面で構える。
騎士を辞めるまでの日課だった、朝の体操の代わりの剣の素振りをする為に、リオネルは外に出たのだ。
「いい剣だなあ。ダリウス、ありがとうな」
不器用な親友からの贈り物を振り上げ、振り下ろす。
ここに来るまでは中断していた日課の素振り。
それを終えたあとは、リオネルは魔法で目の前に自分自身の影を作り出す。
そして、自律で思考するその影相手に模擬戦を行い汗を流した。
「ふう。こんなものかな」
騎士団にいた頃よりは軽めの模擬戦を終え、鞘に剣を戻して一息つくと、リオネルはシャツで汗を拭い、汗でキラキラ輝く金髪を掻き上げた。
そして館に戻ると、もう一度洗面所に向かう。
『リオネルさん。朝食出来ましたよ』
「ありがとう。先に汗流してくるよ」
『かしこまりました。では私はお嬢様を起こして参ります』
「フィオナさんは起こさない方がいい感じかな?」
『そうですね。魔眼が馴染むまでは安静に、です』
「分かった。リリアを頼むよ。あとごめん。寝室のクローゼットから着替え取ってきてくれない?」
『お風呂ですか? かしこまりました。すぐにお持ちします』
リオネルの言葉に会釈して、エメラは廊下ですれ違うと、階段の方へと向かっていった。
そしてリオネルは洗面所で服を脱ぎ、置いていた籠に汗で濡れた衣服を放り込むと、棚に置かれていたタオル片手に浴室に入り、水の魔法で浴槽をいっぱいにする。
このあと、水でいっぱいの浴槽に手を突っ込んで、火の魔法を発動させると、水を湯に変えた。
「うん。いい感じだ」
湯加減の調整を終えたリオネルは、このあと湯に浸かって朝風呂を堪能。
とはいえ、エメラが用意した朝食もあるので一息ついたあと立ちあがろうとした瞬間。
浴室の出入り口の扉が勢いよく開いた。
「私も入る」
「びっくりしたあ。お、おはようリリアちゃん」
「私もお風呂入るの」
「ああもうすっぽんぽんだし。ダメとは言わないけど」
寝ぼけているのか、抑揚なく言ったリリアの後ろ。
慌てた様子でリリアが脱いだシャツとスカートを拾っているエメラが『申し訳ありません! 一瞬目を離してしまった隙に』と文字を投影しているのが見えて、リオネルは苦笑する。
初めてのことに多少驚きはしたが、これも経験かと、リオネルはエメラに「ごめんね、すぐ上がるからちょっとだけ待ってて」と言って微笑むと、リリアを迎えて一緒に浴槽のお湯に浸かって朝風呂を堪能した。
体を温め、風呂から上がり、リオネルは用意してくれた着替えを着たあと、リリアが体を拭くのを手伝い、エメラが持ってきてくれたリリアの着替えを着せ、二人は揃ってダイニングに向かう。
「朝食の用意ありがとうエメラさん。ごめんね、待たせちゃって」
『こちらこそ申し訳ありませんでした。お嬢様を起こしてダイニングまでは一緒に来たのですが』
「お湯が流れる音が聞こえてたのかな? まさか一緒にお風呂入るって言い出すとは思わなかったよ」
『次からは、気を付けます』
「大丈夫、気にしなくていいよ。俺はリリアちゃんのお父さんだからね。一人で入れるようになるまでは面倒みるよ」
リオネルはリリアの頭を撫でながら微笑んで言うと、エメラに向かってもニコッと笑って見せる。
そのあと、リオネルとリリアは並んでテーブルにつくとエメラが作った朝食のサラダとスープを美味しく頂いたのだった。
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