深夜 寝室にて
リリアが眠っている間に、荷物を片付けてしまおうと考えたリオネル。
しかし、片付けるとは言っても持ってきたのは衣類のみだったので、それも直ぐに終わった。
リリアが眠っている寝室、工房に繋がる姿見があるこの部屋をとりあえずの自室と定め、寝室のクローゼットに自分の衣服とリリアの衣服を分けて片付け、フィオナの荷物は隣の寝室に置いておいた。
「流石にすぐには終わらないか」
魔眼獲得のため、鏡の向こうの工房で施術中のフィオナを心配するリオネルだが、いくら自分が心配したところでフィオナの負担が減るわけもなく、施術の時間が短くなるわけでもない。
とはいえ眠ってしまうのもどうかと思い、リオネルはリリアが眠るベッドに腰掛け、鏡が再び工房に繋がるのを待つ事にした。
「夜間訓練に比べればどうってことない」
新米時代を思い出しながら呟くと、リオネルは寝室にもある本棚から持ってきていた、商店にも売っているような生活魔法活用書を開いて目を通す。
とはいえ一時間もしないうちに飽きてしまったので、リオネルは立ち上がると本棚ぬ魔法書を戻すと、再びベッドに腰掛けて魔法の鍛練がてらに空中に水を作り出し、その形を魚に変えたり、動物に変えたりして固定。
複数作り出して部屋を漂わせていた。
その漂わせている水で作った魚を、喉が渇いたので口に放り込み、喉を潤し、リオネルは一旦鍛練を終了。
そこまでして、自分がなんのために鍛練しているのか疑問を抱いた。
「もう騎士じゃないってのになあ。いやいや、いざという時に戦えないってのは話にならないし。鍛練は続けないと」
壁と結界に守られた王都に住んでいるわけではないのだ。
魔物や野盗に襲撃される可能性だって大いにある。
これからは国防のためではなく、娘を安全に育てるために鍛練する。
そんな事を考えながらも、リオネルは今後の生活の事を考え始めた。
今は騎士団時代に稼いだ給金が有り余っているから生活には全く困らないものの、それも無尽蔵ではない。
仕事を探すとして、剣や魔法しか取り柄がない自分に何か出来る仕事はあるんだろうか。
などと考えていると、リオネルはつい眠気に誘われ、うとうとし始めてしまう。
そんな時だった。
工房に繋がる姿見から鏡が消えたかと思うと、工房側からエメラが姿を現し、ベッドに座っていたリオネルを見つけ『あ、ちょうどよかった』と、頭の上に魔力で文字を投影した。
『施術は無事に終了しました。しかし、痛みでフィオナさんが気を失ってしまったので、運ぶのを手伝ってください』
両手を揃えて頭を下げながら文字を投影したエメラに、リオネルは「もちろん手伝うよ」と二つ返事で立ち上がり、エメラと工房に向かっていく。
するとそこには部屋の中央にある魔法陣が書かれた台座に寝かされ、魔法陣が書かれたベルトのような目隠しをされたフィオナが力無く横たわっていた。
「儀式の……生贄みたいになってる」
『実際儀式はしましたからね。何も捧げてはいませんが』
「とりあえず寝室に運べばいいんだよね?」
『汗も酷いですので、本当は体を清めた方が良いのですが』
対面に立つエメラが投影した文字を目で置い、顔を赤くしたリオネルが「いや。流石にそれは手伝えないよ?」と冷や汗を滲ませる。
『分かりました。まずは寝室に運んでください。私が体を拭いて着替えさせて頂きます』
「ごめんね。役に立てなくて」
『なぜ謝るのです?』
リオネルの言葉に、心底分からないと言いたげにエメラは眉をひそめ、首を傾げる。
その様子を見て、騎士団時代に友人のダリエルから「お前は謝りすぎだ」と小突かれた日の事を思い出し、リオネルは苦笑すると気持ちを切り替えるように深呼吸して台に寝かされているフィオナを抱き寄せ、横抱きで抱えあげた。
「この状態で通路、通れる?」
『……無理ですね。エメラが足を持ちます』
「いや、フィオナさんには悪いけど、ここは背負っていくよ」
完全に力が抜けている人間の重量感は想像以上のものだ。
とはいえリオネルは元騎士。
戦場で気を失った戦友を担いで走り回った事もある。
エメラは人形だが、中身は精霊だ。魔眼の施術がどういうものかは見ていないリオネルには分からなかったが、目に見えて魔力が減り、疲弊している様子だった。
二人が頑張ったのだ、この程度やらないようでは二人に顔向け出来ないと、リオネルはフィオナを台に降ろして背中に担ぎ直しす。
「軽いな。心配になるよ」
予想以上の軽さに驚きつつ、リオネルは歩き始めた。
担いでいるフィオナを通路の壁や出入り口の姿見のフレームにぶつからないように気をつかい、リリアが眠る寝室に戻ると、そのまま隣の寝室へと向かう。
そしてエメラが布団をめくり上げたベッドの上にフィオナを下ろすと、ゆっくり寝かせた。
『ありがとうございました。あとはエメラが引き受けます。リオネルさんはお休みください』
「エメラさんも、終わったら寝るんだよ? 疲れてるだろ?」
『主のような事を言う人ですね』
「あ、ごめん無神経だった?」
『いえ。逆です。嬉しいのです。お気遣いありがとうございます』
「それなら良かった。じゃあまた明日。おやすみ」
『おやすみ……なさいませ』
こうして、リオネルはフィオナをエメラに再び任せ、自分はリリアが眠っている寝室に足を踏み入れる。
そして壁にはめ込まれた魔石に触れて天井の発光系魔石が入った魔光灯を消すと、窓から差し込む月明かりを頼りにリリアが眠るベッドに入って眠りについた。
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