新居での夕食

 新居となる占い師の館の内見を済ませ、館に棲む占い師が連れていた精霊、エメラへの挨拶も終わらせたリオネルたちは一旦村の中央にある住宅密集地へと戻ってきた。

 宿に預けた荷物を受け取りに来たのだ。


 そしてリオネルたちは村長が乗る竜車に戻ると、館に帰るために道を進み始めた。


「すみません村長。何度も送ってもらって」


「気にしないでよ。家にいても昼寝してるか散歩してるかくらいなんだから」


 微笑みながら言った村長の言葉を、リオネルは嘘だと感じていた。

 細身のご老人ではあるが、その体幹や歩き方に俗に言う達人めいたものを見ていたからだ。


「村長さん。相当強いですよね? 普段どんな鍛練をされているのですか?」


「さて。なんの事かな? 僕は君と違って普通の人間だよ? まあ昔は冒険者なんかもしていたけどね」


 その言葉に、食いついたのはフィオナだった。

 

「冒険者だったんですか?」


「若い頃の話だよ。仲間たちと色んな場所を旅したもんさ」


 こうして始まった村長の昔話。

 どんな魔物と戦い、こんなダンジョンをクリアしてと、村長の冒険譚を歌の代わりに聞きながら、リオネルたちは日が傾き始めた村を館に向けて進んでいく。


 そんなリオネルたちが館の前に戻った頃には、西の空が夕焼けに染まり、四枚羽の鳥が連なって巣に帰って行くのが空を見上げたリオネルの目に映った。


「さて、じゃあ僕は帰るよ」


「夕食ご一緒しませんか?」


「すまない。今晩は友人との約束があってね。また今度お呼ばれしようかな」


「分かりました。帰路お気をつけて」


「ありがとう。じゃあ、おやすみ皆。良い夜を」


 その言葉を残して、村長は竜車の手綱を振ると小さな橋の前で竜車を転回させて村の方へと帰っていった。

 そんな村長の背に頭を下げて見送りを終えると、リオネルはリリアとフィオナを連れて石橋を渡っていく。


 そんなリオネルの目に、館の明かりが灯っているのが見え、同時に、玄関の前でエメラが姿勢良く立っているのが見えた。


「エメラさんの出迎えだ。ある程度は野外でも活動出来るんだなあ」


「敷地内なら大丈夫なんでしょうか。家憑き精霊、シルキーは稀少な存在ですから。まだまだ生態など不明な点が多いと聞きますし」


「まあこれから知っていけばいいか。今日から一緒に暮らすわけだしね」


 話しながら、自分の肩に掴まって歩くフィオナの歩幅に合わせてゆっくり進んでいくリオネルとリリア。

 三人が玄関前に到着すると、エメラは扉を開き、リオネルに近付いてきた。


 そしてそのままリオネルが二つ持っている鞄に手を伸ばす。


「持ってくれるのかい? ありがとう。橋の方にもう一つ置いてるから先にそれを持って中に入っててくれるかい? あっちの鞄取ってくるよ」


「すみませんリオネルさん。お手伝い出来ませんで」


「自分の分持ってきたじゃないですか。何も謝ることありませんよ。じゃあちょっと行ってくるんで、エメラさんと中で待っててください」


 そう言って、鞄をエメラに渡すと、リオネルは踵を返して再び橋の方に歩き始めた。

 すると、リリアはフィオナやエメラと中に入らず、リオネルの後ろをついて歩き始めた。


「どうしたの? 先に中で待ってていいんだよ?」


「ううん。一緒にいる」


「そう、分かった。手は繋ぐかい?」


 立ち止まって隣に立ったリオネルの言葉に、リリアは無言で頷き手を伸ばす。

 その手を握ると、リオネルとリリアは橋に向かって歩いていく。

 そして橋の向こうに置き去りにしていた鞄を手に持つと、振り返って館に向かった。


「そろそろお腹減ってきたね。リリアちゃんはどう? お腹減った?」


「ん。お腹減った」


「あ、しまった。夕食の食材なんか買ってないや。鞄に何か入ってたかなあ。最悪村まで走るか? 店が開いてればいいけど」


 自分のうっかりで本日の夕食がお預けになるかもしれない危機感で、冷や汗を浮かべるリオネルだったが、戻って来たリオネルとリリアを再びエメラが迎え館に迎え入れると、エメラは手を差し出して二人を誘導。

 廊下からリビングではなく、ダイニングの方へと二人を案内した。


 案内されるまま、二人はダイニングの扉を開ける。


 すると、視線の先のダイニングテーブルの上に並べられている三人分の夕食が見え、リオネルは目をパチクリとさせて目の前の現実を疑う。


「もしかしなくてもエメラさんが作ったの⁉︎」


 驚いて声を上げたリオネルに、エメラは無言で頷くと、既に椅子に座っているフィオナの対面の椅子を引き、続いてフィオナの横に移動するとその場所の椅子を引いた。

 座れという事なのだろう。


 リオネルは鞄を壁際に降ろすとリリアをフィオナの横に座らせ、自分は二人の対面に腰を下ろす。

 漂ってくる野菜タップリのスープの美味しそうな香り。

 その香りから傷んでいるわけでは無さそうだと判断すると、リオネルは女性陣二人に先んじて置かれたスプーンに手を伸ばした。

 

 まずは自分が二人より先に何処から取ってきたか分からない野菜を食べて大丈夫か確かめようと思ったのだ。


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