占い師の館

 数年前に死んだ占い師の住居であった小ぢんまりした石造りの館。

 新居になるかもしれないその館に足を踏み入れたリオネルたちは、村長の案内で玄関フロアから奥に進み左右に別れた廊下で一度足を止めた。


「左に行くと広めのリビングで途中に二階に上がる階段があるんだ、右に進むと右手に見えてる扉からダイニングキッチンに繋がっていて、左手の扉がトイレ。突き当たりに見える扉が洗面脱衣所、その奥にお風呂場があるんだ。どっちから見るかね?」


「じゃあ、右から行きましょう」


「分かった」


 村長の案内で館の中を進んでいくリオネルたち。


「ここがトイレね」


「しゃがむんじゃなくて、便座にすわるタイプですか。しかも陶器製。随分と高価ですね」


「しかもちゃんと水洗だよ。流した水は地下を通って近くの沼に行く。そこでスライムの餌になるから気にせず使ってくれて良いよ」


「王都と同じスライム浄化式なんですね分かりました」


 まず見たのはトイレ。そのあとは廊下の突き当たりの扉を開き、洗面所と風呂場の様子を確かめに行く。


「バスタブ式。でも結構大きいサイズですね」


「あの人、風呂好きだったからね。君でもこのサイズなら寝そべれるんじゃないかな?」


「ですね。子供と入ってもまだ余裕がありそうです」


 小さな窓が一つある浴室を眺め、リオネルたちはダイニングへと向かうために洗面所を出た。

 廊下を少し戻り、ダイニングの扉を開ける村長。

 その先に置かれていたテーブルは六人用で、椅子も六脚置かれている。

 その椅子の一脚に少女の人形が置かれていたので、リオネルはそのあまりにも精巧に作られた人形を見て一瞬硬直した。


「人形? へえ、凄いですね生きてるみたいだ」


「おお。よく見抜いたね。ここに来た人は全員この人形を見て人と勘違いして驚いていたのに」

 

「まあパペット型の魔物とも戦った事もありますからね。それに魔力も感じませんでしたから」


「お人形さん。触ってもいい?」


「良いですか? 村長さん」


「うん。構わないよ」


 村長の許諾を貰ったので、リオネルはリリアを下ろした。

 すると、リリアは人形のところまで歩いていって人形が着ている給仕服をちょんと摘んだり、球体関節が見える手を触ったりする。


「リオネルさん。どんなお人形さんがあるんですか?」


「そうですね。座っているので正確な大きさは分かりませんが、十代半ばくらいの見た目の女の子の人形が置いてあります。給仕服を着ていてメイドさんみたいですよ。髪と目は薄い緑ですね。暗がりで見たら人間と間違えそうな精巧さです」


「凄いですねえ。ここに住んでいた占い師さんが造ったんでしょうか」


「そうだろうね」


 リリアが人形を触っているのを邪魔するのも可哀想かと思い、リオネルたちはダイニングから繋がっているキッチンへ向かい、魔石で着火するコンロと、魔石に魔力を送って水を流すシンクを確認。

 裏口も奥にある事を教えてもらってダイニングに戻った。


 すると、リリアが人形に向かって「ここに住んでるの?」と声を掛けているのをリオネルたちは見る。


「どうしたのリリアちゃん。お人形さんと遊んでたのかい?」


「ん。お姉ちゃんとお話してた」


 子供の人形遊びみたいなものかと微笑ましく思い、笑みを浮かべる大人三人。


 機嫌良く遊んでいるならここで遊ばせておくのも良いかと感じ、リオネルは「リリアちゃん。俺たち向こう行くけどどうする? お姉ちゃんと遊んでるかい?」と声を掛ける。

 しかし、リリアは首を横に振って「ううん。一緒に行く」と言うと、リオネルの側に近付いてきた。


「抱っこするかい?」


「いい。歩く」


「分かった。じゃあ村長さん案内よろしくお願いします」


 こうして、再びリオネルたちは内見を再開。

 次に向かったのはダイニングや風呂場と逆方向にあるリビングだ。

 廊下を進んでいくリオネルたちはその廊下の突き当たりまで進み、扉を開ける。


「壁の魔石で灯が点くんだけど、その下に火の魔石が埋め込まれてれだろう?」


「ああ。ありますね。何用ですか? 暖炉、ではないですよね」

 

「魔力を送ってみるからもう少し部屋の真ん中に行ってみてくれるかい?」


 村長に言われるまま、リオネルたちはリビングの真ん中あたりまで進む。

 それを見て、村長は壁に埋め込まれている魔石に触れて魔力を送っていった。


「どうかな?」


「足元がじんわり暖かくなってきました」


「ポカポカなの」


「床下に火のクズ魔石を埋め込んでいてね。それで暖がとれるんだ。これを見て、うちの村の住居にも使わせてもらったんだけど。寒期には重宝するよ」


「暖炉もあるし。寒さ対策はバッチリですね」


「ここなら寝ることもできそうですねえ」


「確かに」


 フィオナの言葉に同意して、リオネルは微笑んだ。

 そして壁際に置かれたソファに近寄り、壁に埋め込まれた本棚に並べられている本を見ようとしたところで「さあ今度は上に行こうか」と、村長が言ってきたのでリオネルたちはリビングを出る。


 そして、リビングを出てすぐ左手にある階段を上がって行った。

 二階は全て洋室で、全部で四部屋。

 二人で住むにしても三人で住むにしてもだいぶ広い印象だ。


「ここがさっきのリビングの上の部屋だね」


 そう言って、村長が扉を開く。

 この時、リオネルはその部屋の位置が先程外から人影を見た部屋だと気がつく。


 しかし、もちろんそこには誰もおらず。

 ただ壁際のソファにダイニングにあった人形と全く同じ物が座っているだけだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る